貞本義行・著『新世紀エヴァンゲリオン』11巻の感想
コミックス11巻発売の予想を書いてから2ヵ月、ようやく発売された。TVシリーズで言えば、第弐拾四話辺りだろうか、いよいよ本当の佳境に入ってきた。普通の連載ならばコミックスを買って、続きを読みたければ掲載誌を、となるのだけれど、貞本エヴァはそうはいかない。今年は「ヱヴァ新劇場版」もあるし、貞本氏は多忙そう。まだまだ続きは読めず、完結もしなさそうだ。
以下に、通して読んだ感想を。
大切な人を次々と失っていくシンジに対し、更に追い討ちをかけるかのような、ケンスケからの“別れ”の留守番電話メッセージ。直接は触れないものの、ケンスケは何処かでトウジのことを知り、シンジの乗った初号機が手を下したことまで知ってしまった。にも関わらず、じゃ がんばれよ さいなら
とささやかな励ましの言葉を送るのは、ケンスケの人柄なのだろう。しかしながらシンジにとっては、何も言わずに去られた方が、まだ心の傷は少なくて済んだと思う。折角得た友人たちを失い、孤独になっていく様が丁寧に描かれている。
誰も友人と呼べる人間がいなくなったシンジに対して、自分しか残されていないと説くカヲルだが、改めて拒否される。あくまでシンジはカヲルを好いていないことが強調される。カヲルがシンジを好きになる理由について、今回のコミックス11巻の“著者近影”で重要なことが書かれている。以下に引用。
心に流れ込んできたレイの感情により、自分でも理解できないまま、行き着く場所のない感覚にとらわれる。
コミックス10巻のアルミサエル戦でカヲルに流れ込んできたレイの感情によって、“理由が解らないまま”シンジに対して好意を抱いていたという。TVシリーズではアルミサエル戦にカヲルが参加していないため、そういった理由付けは有り得ない。シンジとカヲルの惹かれ合う描写が心理的な部分のみで、具体的に描かれることが無かったTVシリーズとはそもそも設定自体が異なり、より明確に、説得力のある設定となっている。
再生されたアダムの肉体をゲンドウが取り込むシーンが挿入されているが、まさか口からとは思ってもみなかった。確かに体内に“取り込む”という意味では分かり易いが、もう少し変わった描き方は無かったのだろうかと疑問に思う。衝撃的なシーンではあるが、別に無くても良かったとも思う。
親しみを込めて“カヲルくん”などと呼ぶことは無く“渚カヲル”とフルネームで呼んでいるが、僕は君と戦いたくなんかないんだ
と告げる。“好きではない”と言い続け、拒否し続けたが、カヲルが使徒であることが分かり、殲滅しなければいけなくなった段階で、ほんの少し心が動いていた。シンジの中で生まれる言動と心が一致しない矛盾を、上手く描いている。
プログナイフで攻撃をする初号機に対し、A.T.フィールドを展開するカヲル。1ページを丸々使い、非常に迫力があった。だが、その後の初号機と弐号機の戦闘はもう数ページ使って描いて欲しかった。ターミナルドグマに初号機と弐号機が落下し、先に進むカヲルを止めようとする初号機。次のページの最初のコマでガクンッ
という擬音と共に“何か”が初号機を止め、次のコマでシンジの顔、次に初号機の足首を掴む弐号機、次に弐号機の頭部、という順で描かれる。テンポが心地良く、かつ丁寧に描かれている。
TVシリーズではターミナルドグマに磔にされた巨人を、当初“アダム”と呼んでいたカヲルだが、マンガではやはりこれはアダムじゃない
と、既にアダムでは無いということを勘付いている描写が入る。“黒き月”というキーワードがこの段階で出てきたことも併せて、今後のストーリー展開に影響があるとは思えないが、重要な部分に変更が加えられたことになる。
少年エース 2006年12月号に掲載時、原作に“カラー”が追加された。
比較的急ぎ足になっていたTVシリーズに比べて、シンジとカヲルの会話が長く、出会った時の回想シーンを挿入したりと、より深みが出ている。出会った時からお互いに惹かれ合っていたのとは違い、マンガでは当初、シンジはカヲルを嫌っていた。しかし絞め殺す前のページで、最後に奇妙な友情が生まれる。1ページ丸々を使って初号機がカヲルを握り締める描写をし、ページをめくるとシンジがカヲルを絞め殺しているイメージシーンが入る。絞め殺すという残酷なシーンであるはずが、イメージシーンによって美しいシーンへと変わっている。
レイに続いてカヲルをも失ってしまい、更に心を閉ざすシンジ。そんなシンジのあずかり知らない所ではゼーレ、ネルフが動き、双方の人類補完計画が進行していた。今回特に重要なのは、ゲンドウと冬月の会話に於いて語られた、補完計画に必要な欠けたリリスの心
。そのキーワードと同時にレイが描かれたことからも、欠けたリリスの心
を持つのはレイであり、最終的にはアダムを胎内に宿してリリスと同化してしまうことへの伏線に思える。
他の人間を拒絶したシンジだったが、病床に伏したアスカの元へ行き、思いの丈を打ち明ける。反応することすら出来ない人間に救いを求めるシンジは非常に情けなく描かれている。みんな死んじゃったんだよ
のセリフに続き、一番最初に出てきた名前は“綾波”だったのが象徴的。また、セリフも発さずにただ奇声を上げながらアスカが首を絞める描写は、狂っていて良かった。
最後の心のよりどころであるアスカにも拒否され、病室を後にしたシンジは、ゲンドウとレイを見かける。一度、視線が交わるシンジとレイだったが、言葉が交わされることは無い。レイの横顔から、シンジに視線を向ける顔アップ、視線を逸らし、再び歩いていくところまでを5コマに分けて描き、スローモーションの映像のように描いている。分かり易い形でアスカに“拒否”されたのに続き、無言のままレイに“拒否”されてしまう。心のよりどころを完全に失い、シンジが打ちのめされていく描写の丁寧さは良い。
話とは関係無いが、最後のコマに描かれた膝を抱えて泣くシンジの“影”の描写が、貞本氏らしくないような気がする。
少年エース 2007年2月号に掲載されたSTAGE.76 「最後の敵」、3月号に掲載されたSTAGE.77 「最後の敵・後編」を合わせてSTAGE.76 「最後の敵」とされた。やはり掲載時に読んで思った通り、元々一つだった話を急遽前後編に分けたようだ。掲載時に原稿が間に合わなかったのかも知れない。話数が狂ってしまうから、恐らくSTAGE.77を無かったことにするのだろう。
戦略自衛隊による、ネルフ本部への侵攻が始まる。全体的に「THE END OF~」をそのままマンガに焼き直しているだけに見えるが、兵器群の描写がやはり細かい。擬音と共にシンプルなコマで描かれ、特に変わったことはしていないものの、迫力と臨場感がよく出ている。現在のところ、ストーリー展開が「THE END OF~」とほぼ同じになっているのは仕方が無いとは思うが、映画の“画”をそのままマンガに焼き直すのはいくらなんでも芸が無い。映画をそのままマンガに焼き直したかのように描くことが出来るのは、貞本氏の力量の高さ故だろうが、貞本マンガのファンとしてはオリジナル展開を入れて欲しいとも思う。