対談 庵野秀明×鷺巣詩郎: 序破急

庵野秀明、貞本義行、山賀博之の発言集、作品に関する資料などを掲載

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「エヴァンゲリオン交響楽」 パンフレット より

庵野秀明×鷺巣詩郎

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鷺巣

「ここ何年か、フックト・オン・クラシックというのが合い言葉のようになっていて、何かっていうとその言葉が出てきますね。」

庵野

「カタログ文化の一つの象徴みたいなもんだと思うんですけどね。オリジナルを聴かなくても、サビの部分を集めてそこだけ聴いていればいいという、おいしいとこ採りで出来てます。今のアニメとか、映像的なものってほとんどそれですからね。」

鷺巣

「そうですね。実を言うと、最近の音楽というのも、全くそれで成り立っていて……。」

庵野

「サンプリングとか。」

鷺巣

「ええ。じゃあ、我々のオリジンはないのかというと、そうではなくて、ネタは何かとか、それを選んだ意義とかに……。」

庵野

「選曲の順番とか、何を選曲したかというセンスの善し悪し。そこにオリジナリティがあるという考え方ですね。シュミレーショニズムというやつでしたっけ。僕らの世代はそれしかないんで、そういう意味では世代的なものなのかなあとも思いますけど。」

鷺巣

「そうですね。例えばファッションで言うと、今のデザイナーって、デザイナーじゃなくて本当はスタイリストなんですよ。」

庵野

「デザインというよりは組み合わせですよね。」

鷺巣

「そう。だから、よりスタイリストの作業に近い。それはファッションだけじゃなく音楽もわりと……もっと細かく言うとTVの番組なんかも――別にアニメとかいう事じゃなくて――みんな素材の選び方とその組み合わせ。コンサートなんかも、そういう要素がこれからどんどん強くなってくる。それを考えると、このコンサートも素材の組み合わせと言うことになりますから。」

庵野

「これも、新日フィルに参加してもらった、アニメのイベントですからね。普段、ヘッドフォンで聴き慣れた曲が、生の演奏で、クラシックな雰囲気で聴けるのは、ちょっと意外性があって良いかな、と思ったのが、僕が今回の企画に賛同した理由です。」

鷺巣

「ファンの人が、このイベントで初めて、生の人間が演(や)る生の音に接するんですよね。」

庵野

「生の音って、音圧が違う。腹にきますね。」

鷺巣

「そう、臨場感がありますね。コンサートだと、その場でたくさんの人間が演奏している圧力を感じますから。」

庵野

「オーケストラって、目で見る楽しみもあると思うんですよ。特に、ストリングスの一斉に棒が流れている様というのは……波の動きというんすかね、棒の動きが見ていて気持ちがいいですよね。その辺りも楽しんでもらえるといいかなっと。」

鷺巣

「『エヴァンゲリオン』は、TVの段階でクラシックのスタンダードみたいな物をたくさんチョイスして使っているから、その辺でいわゆる交響楽との接点があるわけです。最初に、このコンサートの話をいただいた時に、クラシックと、ファンが聴き慣れているアニメ本編で使った曲も入れて、2時間ぐらいにまとめたら面白いんじゃないかと思ったんですよ。劇伴も、さっき言ったようにわりと編成が大きかった。編成の小さいやつというのは、厳密に言うとないんですよね。」

庵野

「ないですね。」

鷺巣

「そういう意味では、今回はクラッシックと劇伴を一緒にしてもうまくまとまると思うんですよ。『第九』『ハレルヤ』とパッヘルベルの『カノン』ですが、これを並べるという事は普通はしないですよね。そこで、劇伴として使われた音楽をサンドイッチのように挟み込むという構成になっています。それから、アニメ本編ではあまり使われてないけど、CDの中では隠れた名曲的存在の……自分で名曲というのも何なんですが(苦笑)、これはオーケストラでやったら面白いんじゃないかというやつも何曲か入っています。例えば7番のA-6というのは、TVではそんなに……。」

庵野

「使ったのは、1回だけですね。」

鷺巣

「ただ、サンドイッチに挟み込むには、わりと美味しい具なんで、1回しか使ってないないけど召し上がっていただこうと。」

庵野

「E-3も、一回だけですね。もっと使いたかったんすけど、使うとこなかったんです。すんません。」

鷺巣

「いえいえ。それから、TVで使った曲にしても、オリジナルの曲を忠実に再現する演奏と、アレンジを変えた曲を混ぜようと思っています。」

庵野

「聴き慣れてる曲と、聴き慣れないアレンジがあるのも、聴くファンにとっては刺激になって良いんじゃないかな。」

鷺巣

「『第九』なんかは、聴くに人にも固定イメージがあると思うので、逆に『エヴァ』なりの『第九』にしようと思っています。あと『エヴァ』の場合は『FLY ME TO THE MOON』は絶対に外せないですね。ただ、この曲に関しては本編で既に、いろんなバージョンが使われているので、何をやってもファンの方に許してもらえると思いますので、アレンジを変えるつもりです。どんな風に仕上がるのかは、聴いてのお楽しみですね。」

庵野

「(笑)。」

鷺巣

「きょうび、『FLY ME TO THE MOON』をやるのは、いわゆるジャズ屋さんなんですよね。名前としてはよく知ってるんだけど、メロディを思いだそうとしても、ボサノヴァの曲とかとごっちゃになったり。」

庵野

「結構、スタンダードだと思うんですけどね。エンディングに選曲した時には「メジャーな曲だよなあ」と思ってましたけど。でも、意外と知らない人が多かった。

鷺巣

「『エヴァンゲリオン』を観て、曲とメロディが合致した人は多いでしょうね。」

庵野

「『カノン』ほどは、色が付いてないからいいですよね。『カノン』って、CMでもよく使われてますから。」

鷺巣

「『カノン』は『カノン』で知ってる人はよくぞ使ったなと思ったんじゃないですかね。『カノン』はクラシックで言うと珍しくずっと同じ、しかも2小節パターンで動く曲でしょ。バッハってバロックなんだけど――あの時代はバロック=新しいという意味だったんだけど――その中でもずっと同じコード進行なんですよね。今の感覚で言うとラップなんですよ。」

庵野

「僕は、ボレロとか、ホルストの『火星』とか、同じのを繰り返すのが好きなんですね。だから、『カノン』なんですよね。」

鷺巣

「1曲の中のどこを切りとっても、聴いた感じが同じというのもありますからね。」

庵野

「アニメで、クラシックを使う事に関しては昔から狙っていたんです。今までは、なかなかチャンスがなくて。」

鷺巣

「パッヘルベルの『カノン』って、曲名を見てもあの曲を即思いつく人っていないんです。それほどクラシックって――まあ『第九』とかは別だけど――題名とメロディが一致しないのね。だけど、『カノン』のメロディ聴いたら、コンビニとかデパートのBGMとかで絶対聴いた事あると思う。そういう意味では、パッヘルベルの『カノン』も『エヴァンゲリオン』でポピュラーになったかも。庵野さんは、そういう啓蒙をひとつしたかなというのもありますね。」

庵野

「アニメって、ロックとストリングスが合うんですよね。ああいうジャカスカジャカスカやってるやつと、ストリングスとかピアノベースの、ようするにバロック調のクラシックが。まあ、僕が好きなのは、ピアノとストリングスとギターという、この三つばっかりです。」

鷺巣

「三種の神器。」

庵野

「毎回、そればっかりですね。音楽を発注する時にも、「ここストリングス、ストリングス、ストリングス、ギター、ギター、ピアノ、ピアノ、ピアノ、以上終わり」。で、他の楽器が入ってたら、「すいません、抜いて下さい」って。」

鷺巣

「でも、最近は「抜いて下さい」は少なくなったかな。」

庵野

「鷺巣さんが最初から嫌いな楽器を入れないようにしてくれてるからですよ(笑)。『エヴァンゲリオン』は、新しいBGMを収録する度に編成が大きくなっているじゃないですか。TV版の最初の収録よりも、二度目の収録。それよりも劇場版の収録。」

鷺巣

「で、今回のコンサートでは劇場版よりも、さらに大きな編成で。」

庵野

「TV版の最初の収録の時は、あの6・4・2・2の編成で充分だと思ったんですが、二度目の収録を聴いた時は「ああ、やっぱ重いわ」って思いました。E-13とかは、二度目に録ってるんで、厚みが違いますね。やはり、ストリングスだけは、本当に演奏者が増えたら増えた分、重みが出てきて良いです。」

鷺巣

「今回は、私達が編成が増えていく過程で感じた贅沢感を、ファンの皆様にも同等に味わっていただきたいですね。」

庵野

「あとは人の声ですね。僕は合唱曲も好きなんで。まあ、こういった大人数の声が一斉に聴ける機会というのも中々ないし、聴き慣れた劇伴が生で聴けるというのは良い事だと思います。『エヴァンゲリオン』も、この夏で終わっちゃうんで、そういう意味では最後のサービスになりますからね。今回のイベントは、ファンへのサービスと、鷺巣さんが自分の曲を好きに使うという意味があると思うんですよ。劇伴の宿命みたいな物で、曲が出来る過程でも使う場面でも、鷺巣さんの意見より、僕の意見が優先されるじゃないですか。そういう音楽的な欲求不満部分を、今回のイベントで解消してもらえればと思っているんですよ。そういう意味では、このコンサートに関しては、僕はお手伝い程度で、鷺巣さんの好みで鷺巣さんの好きにすればいいと思っています。」

鷺巣

「結構、好きにやれと言われると辛いところもあるんですよね。庵野さんからの注文に従って成立しているのが『エヴァンゲリオン』の音楽なので、あまり見捨てられると、ちょっと恐い部分もありますね(笑)。」

庵野

「(膝を打って)大丈夫ッスよ。」

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