『ラブ & ポップ』 映像作家としての庵野秀明: 序破急

庵野秀明や貞本義行の発言集、作品に関連する資料など

庵野氏の“40歳を一つのデッドラインと考えている”発言は興味深いが、結局は……。

『ラブ & ポップ』 映像作家としての庵野秀明
Quick Japan Vol.17 より

庵野秀明×竹熊健太郎

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―その翌日の11月15日、土曜日。

ガイナックスの応接室で、僕は庵野監督と久しぶりに対面した。まあ試写会の日に、会場のロビーにいた庵野さんと立ち話程度はしているのだが、考えてみると、まともに話すのは数ヶ月ぶりのことだ。

室内にはAV界の鬼才・バクシーシ山下監督が床にしゃがみこみ、ビデオを回している。山下氏は、同業のカンパニー松尾氏とともに『ラブ & ポップ』のメイキング制作を任されているのである。ふたりに依頼したのはもちろん庵野監督だ。

QJ編集者が持ってきたテレコをテーブルにセットする。さて、どんな具合に切り出すか……と考えている矢先、庵野さんが「ハイ」、とキュー出しをした。

自分は、あと五年です

竹熊

「(笑)いきなりキューを出されちゃいましたね。えっと、『ラブ & ポップ』完成、お疲れさまでした。それでさっそくなんですけど、すぐ入られましたでしょう。この作品に。すごく驚いたんですけど。」

庵野

「え?」

竹熊

「夏の『エヴァ』(『THE END OF EVANGELION』)作ってる最中に、もうこっちの準備に入られてますよね。よくそんなことができたなあと。」

庵野

「ええ。いや、この作品はもう、撮れるなら、今年の夏しかないから。援助交際をネタにしている以上、この冬あたりの公開が、たぶんネタとして限界だと思うんですよ。賞味期限ギリギリなんで。一年先じゃあ、やる意味がない。」

竹熊

「いや、なんでこんな質問したかというと、今までの庵野さんのパターンだと、一回、渾身の力を振り絞ってフィルム作ると、二、三年、間をあけるっていうのがあったじゃないですか。」

庵野

「ああ、もうそれ止めたいんです。継続が、今回の目的ですね。とにかく続けてやろうと。どうせ僕もあと五年しか……。」

竹熊

「え?」

庵野

「もって五年ですから。」

竹熊

「なに生き急いでるようなことを(笑)。」

庵野

「いや、そうじゃないですか。35から40ですよ。いい作品を作れるのは。誰もそうですからね。例外があるとしたら、それまで何もやってなかった人が、40過ぎてなんかやって、パッとうまく行くとか。そういうことはありますけれど、普通にずっとやってて、その人が一番いい仕事をするのは、35から40ですね。だから、今しかない。」

竹熊

「ただ映画監督でも、50代でいい仕事をする人だっていっぱいいますよ。」

庵野

「僕はそういう人じゃないから。」

竹熊

「じゃあ、40ぐらいが、一つのデッドラインと考えてるんですか。その先、どうするんですか。」

庵野

「いや、その先はプロデューサー業というのもあるし。作るにしても、そのあとは、下降線の勾配をできるだけ緩やかにする。まあ、そう言われないように頑張るとかいうのはありますけれど。」

竹熊

「うーん。ただ今回、僕には庵野さんが作り急いだ印象があったんですけれども。」

庵野

「ああ、それは自分の力至らずなだけです。限られた時間しかなかったですから。」

女子高生は分からない

竹熊

「なんか聞くところによると、庵野さん、「これは『エヴァンゲリオン』パートⅡじゃない」とおっしゃっているそうですけれども。」

庵野

「パートⅡではないです。」

竹熊

「でも見ると、つながっているように見えるんですけれども。」

庵野

「いや、それは同じ人間が継続してやってますからね。それはもちろんそうですよ。ここで『エヴァ』が完全に断ち切れれば、大したものなんですけれども。」

竹熊

「実は撮影用台本、試写会の前に読んだんです。(台本にあった)冒頭の「気持ち悪い」というセリフ、完成作品ではカットされてましたね。」

庵野

「あれは薩川さんの心遣いなんですね。やっぱりつながってるものは、つなげちゃっておいたほうがいいですよって。でも、やっぱりこういうんじゃないよなあと。」

竹熊

「ただ、脚本全体としては、すごく原作に忠実ですよね。」

庵野

「ええ。方法論としても、時間がないですから。」

竹熊

「いや、それでね。夏の『エヴァ』は、「気持ち悪い」という、拒絶のセリフで終わりますよね。それですぐに『ラブ & ポップ』を作るっていうんで、なるほどと思ったんですよ。対象がコギャルですよね。僕らの年齢では普段接しようのない。それで、あえて一番自分から遠いもの(他者)に切り込もうと思ったのか。」

庵野

「うーん。でも原作の女の子、コギャルじゃないですしね。普通の女子高生ですから。オーディションで本物のコギャルの人、来てたんですけど。やっぱりピンと来なかったですね。」

竹熊

「極めて普通っぽい子を選びましたよね。で、ものすごく引いて撮ってた感じがするんですけど。今回の映画。」

庵野

「ええ、引いて撮ってます。」

竹熊

「構図がとかじゃなくて、なんか対象に対して、引いてるなっていう感じなんですけど。」

庵野

「ああ、もちろんそうです。距離を置かないとなんにも撮れないですからね。(女の子たちの心理は)読めないしね。分かんないものは、分かんないですね。」

竹熊

「女の子達と接してどうでした?」

庵野

「ああ、わけ分かんないです。」

竹熊

「なんか、撮影前、一緒に遊園地に行ったとか(笑)。」

庵野

「ええ。その時、確信しました。世代の差っていうのは嫌なんですけれど、でも、そういうもんなんでしょうね。育ってる環境も違うし、考え方も何もかも、まるで接点がないでしょう。」

竹熊

「最初はもうちょっと接点つけて、撮影に臨もうという思いは?」

庵野

「いや、それはなかった。そんな、一日二日で打ち解けるはずはずないですよ(笑)。撮影期間の一月半で、打ち解けるはずがない。それは表層的に仲良くっていうのは、もちろんやればできますけど。でも努力したところで、お前のことは全部分かってるというようなことは、まずないと思いますけど。で、そうなった時に、この子はなんでこんな芝居をやるんだろうっていうのは、自分の中で理解するのはやめようと。もう割り切って。分かんないものは、分かんないまま、さっさと出そうと。」

ドキュメンタリーは断念

竹熊

「原作を読まれた時に、これを映画にしようと思ったんだから、なんらかのポイントがあったと思うんですけれども。ここを絵にしたいとか。」

庵野

「いや、あんまりなかったです。まあドキュメンタリーと言った感じですね。」

竹熊

「うん。それでほとんど全編、撮影がデジタルカメラで。」

庵野

「最初は普通のビデオ作品だったんですけど。テレビの深夜枠で放映するつもりで。それで局に聞いたら、深夜枠の制作費って、腰が抜けるほど安かったんですよ。上限でこれぐらいしか出ないって言われて、これじゃ撮れん、っていうことがあって。でも原作権さえもらえれば、自主映画でもできるから。1000から1500万ぐらいなら、自分で金を集めてなんとかできるかなと、最初はそう思ってたんですけど。」

竹熊

「でも完成作品はドキュメンタリーかというと、そうでもなかったですよね。」

庵野

「徹底的にドキュメンタリーは、今は撮れないです。」

竹熊

「これは聞いちゃった話なんですけど、一番最初のゼロ稿というのがあって、それはまるで違う内容だったらしいですね。」

庵野

「ええ、全然違います。最初のゼロ稿は、そっち(ドキュメンタリー的なもの)を前提にしてあったんですけれど、ドキュメンタリーなのに、シナリオがあるっていうのに、引っ掛かったりして。

で、やらせのドキュメントというのは可能なんですけれど。一つは『ありふれた事件』というのがありますでしょう。」

竹熊

「あれ、見ましたよ。(注/ある殺人狂の男をテレビ・クルーが追ううちに、男の狂気にともに巻き込まれていくという、疑似ドキュメンタリー映画の傑作)」

庵野

「よく出来ててですね。あれほどの物は、この期間ではできない。それに、同じようなやつをやってもしようがない。向こうは殺人鬼を被写体にしてて、こっちは援助交際というので、このインパクトの差でもう負けてるんです。それでドキュメンタリーの方向は、もうバッサリ捨てました。」

竹熊

「それはそれで、まだ未練はあるっていう線なんですかね。」

庵野

「やりたいんですけど、やらせのドキュメントじゃなくて、本当にやらないと。ドキュメンタリーのスタイルに憧れているわけじゃなくて、そのものに憧れているわけです。そう考えた時点で、これはもう、普通に撮るしかないなと。」

竹熊

「ただカメラワーク、普通どころか凝り凝りだったじゃないですか。『熱烈投稿』を思い出したんだけれども(笑)。パンチラ構図みたいな。」

庵野

「いや、パンツ映ってるカットは、全部切ってるんですよ。結局、見慣れない絵を、できるだけ切り取って行こうとすると、そういう絵になるんですね。普通の絵はつまらないから、そういうふうになって行ったと思うんです。」

竹熊

「画面のサイズが時々変わりますよね。スタンダードからいきなりビスタ・サイズになったり。あれ法則性があるんですか?」

庵野

「法則性?」

竹熊

「ええ。ドラマ部分はスタンダードのテレビサイズで、風景だけのシーンでビスタになったりするでしょう。あれ、ひょっとしたら、マンガのコマ割りをやりたかったのかなと、ちょっと思ったんだけど。」

庵野

「ああ、それに近いですね。まあ逆に縦長の画面も。」

竹熊

「裕美が仲良しの女の子たちにお金を返して、一人で援助交際することを決意する、あのシーンですね。画面が急に縦長になって、女の子四人がそこに押し込められる。あそこ、すごい緊張感がありました。」

庵野

「ええ。マンガのコマ割りに近いですよ。その通りです。マンガの、縦に長いコマとか。あれがアニメやってる時に、うらやましくて、うらやましくて。」

無意味なものを無意味に

竹熊

「原作読むと、ものすごいリミックス的というか、編集的じゃないですか。特に町の音と、主人公達の声がミックスされるような描写。読んで、ああ、これ庵野さんがやるんだったら確かに面白いだろうと。」

庵野

「面白いですけれど、(映像にするのは)難しかったですね。なんか他の方法論なかったかなあと思うんですけど。情報の並列化は、文字媒体のほうがシンプルな分、いいんですよ。絵も、まだシンプルじゃないですか。映画になると四次元ですからね。四次元的な複雑な物で、情報の並列化は。」

竹熊

「受け手の処理能力の問題もあるし。」

庵野

「そうなんですよ。まあ、僕も未熟だし、客も未熟というところがありますよね。というのは(画面に)映っているものに、意味を探るじゃないですか。無意味なカットというのが客にとっては存在しない。」

竹熊

「そうですね。必ず意味がね。」

庵野

「必ず。たとえば電信柱が映っていると、電信柱が何を意味するんだろうと勘繰っちゃうんですよね。」

竹熊

「でも、それは人間の心理だから、どうしようもないんじゃないですか。」

庵野

「どうしようもないんですね。そこに無意味というか、何も見いださないようにはなれない。だから未熟というよりも。もう人間の性なんですね。アンディ・ウォーホルの画みたく、無意味なものが映像でできていれば、これはスゴイと思います。まあ、舞台とかなら可能だと思うんです。それでもし客が飽きなかったらすごい。」

竹熊

「ウォーホルもそうだけれど、60年代のポップアートって、そういうのを指向してたでしょう。でも必ず意味がそこに派生しますよね。否応なしに。」

庵野

「派生して、それでまた挫折がある。」

竹熊

「無意味なものをやってるのに、受け手は必ず意味を読み取る。で、その落差で商売するわけじゃないですか。ポップアーチストというのは。」

庵野

「ええ。原作のあの情報の並列化のところには、それに近いものがあるんですよ。」

竹熊

「あれ、うまかったですね。でも庵野さんは、それを『エヴァ』でさんざん味わっていると思うんだけれども。なんのことはない一カットに対してファンが邪推しまくるとか。」

庵野

「ええ。逆にそれを利用したっていうのもあるんですけど。『エヴァ』では。」

竹熊

「そうか。僕、ちょっと勘違いしてたかもしれない。というのは、庵野さんと去年一緒に『巌流島』(三谷幸喜・作)の芝居を見に行った時もそうだけれど、当時、舞台にすごい興味持ってましたよね。」

庵野

「ええ。今もあるんですけど。」

竹熊

「それ聞いて僕が思ったのは、舞台の仕事って人間関係の縮図じゃないですか。アニメのようなプロセスを経ないで、生身の役者と一ヶ月ぐらい稽古してっていう。」

庵野

「いいですよね。」

竹熊

「うん。それで、生身の役者との関係性を作りながら、作品でも人間関係に切り込んで行くようなところに庵野さんの興味が向かっているのかなって、勝手に思ってたんですよ。突き詰めるとそれがドキュメンタリーになるのかなって。でも今のお話を聞いていたら、「無意味」ということにむしろポイントがあって。」

庵野

「ああ、それは企画によりけりです。『ラブ & ポップ』でそれをやってもしょうがないですよ。それはポップにはなりえない。そういうドロドロしたものというのは『エヴァ』で出し切ってますから。だからそういうのが嫌だった人が、今回さっぱりしてていいと言ってくれたりとか。ただコクの濃い物を楽しみにしてた、竹熊さんとか、そういう人には、今回はあっさりしすぎてて、コクが足りんとか。

まあこの方法論では、それは無理だと。いろいろ試行錯誤して、行き着いたところがこれだから。これは映画の神様が言う通りにやって行くと、こうなって行くんですね。その流れにだけは逆らわんとこうと。」

毎回、成り行きですよ

竹熊

「するとこの作品、庵野さんにとってはプライベートなものとは全然違うと。」

庵野

「全然違います。あんなの『エヴァ』で十分ですよ。もうやり尽くした。『エヴァ』は他人のプライベートまで浸食していますから。」

竹熊

「やり過ぎた?」

庵野

「やり過ぎたというか、僕が個人的に知ってる女の子のネタとか、ほとんど費やしてしまったんで。『エヴァ』で。だから、もうないっすよ。店じまいですか(笑)。閉店大バーゲンってやつで。」

竹熊

「じゃあ今回は、むしろ、仕入れのないところで始めたってことですか?」

庵野

「仕入れはよそさまから。自分の棚にないので、よその棚からもらって来て、それを売ってる。流通とは、そういうもんです。あとはもう入ってきた素材を処理して作ってる。」

竹熊

「でも前に『ラブ & ポップ』に関するインタビューを受けられてて、庵野さんが原作を読んで、女の子のキャラクターが面白いからやる気になったというようなことを答えてませんでしたっけ?」

庵野

「うーん。……あの辺の記事って、なんにもチェックしてないんで、たぶん全然違うことだと思います。読んでも、ああ、違うわって。こういうつもりで言ったんじゃないんだけどなあって。こちらの言い方が悪かったのか。」

竹熊

「いや、まあそれはやっぱり、映画を見てくれよっていうので、監督の答えは済んじゃうんだけど。ただ今までの庵野さんの話を聞いていて、とにかく今やりたいって言う、今やらないと、もう40になっちゃうというような、そういう焦りのようなものは、すごくよく分かるんですけど、それ以外の作品を作る動機が分からないんですよね。」

庵野

「動機……。」

竹熊

「こういうことがやりたいから、この題材じゃないとダメだ、この撮り方じゃないとダメだっていう。」

庵野

「ああ、それ、僕いつもないですよ。毎回、成り行きですよ。成り行きっていうのが、一番いいと思いますけど。」

竹熊

「成り行き人生。でも、結果的には、毎回こだわっちゃうじゃないですか。」

庵野

「まあ、そういうもんでしょう。動機にこだわって、どうするって。そういうのは、どこかにあるんだろうけど、別にそれがなんだっていうのは、関係ないと。」

春の映画は地獄でした

庵野

「でも一回だけミスったのが。春の映画です。」

竹熊

「『DEATH & RIBIRTH』?」

庵野

「春の映画がそうですね。あれをやらなきゃいけないという、動機をつけて。そういうことをしてもろくな目にあわんというのが、よく分かりました。」

竹熊

「やらなきゃいけないっていう使命感みたいなものを作っちゃった?」

庵野

「それで、春のほうは、人生最大の負け戦。あんな負け方したの、初めてです。生まれて初めて作品を落としましたから。落としたことだけはないのが、自慢だったんですけどね。テレビシリーズの時も、どう見てもこれはできんという、ギリギリのシチュエーションで、放送に穴をあけなかったですから。」

竹熊

「去年ですか、庵野さん、一度終わった作品で、もう一度自分を駆り立てて作るのは辛いって言ってましたよね。その辛さのピークが春だったと?」

庵野

「いや、極端な言い方をすれば、引き受けるべきじゃなかったと。それは春に感じたことで。で、やらなきゃ良かったというようなものに、スタッフを巻き込んでいるというのは、苦痛ですね。もうあわせる顔もない。なのに仕事上、そこにいなきゃいけない。それは地獄です。」

竹熊

「それはいろいろあったと思いますが、でも夏の『エヴァ』に関しては、終わらせるのが目的だったと言うけれども、ものすごいクオリティじゃないですか。」

庵野

「スタッフがスゴイですから当然ですよ。そこまで見せるわけですから。あれはつとめて冷静にやってます。テレビのほうが、よっぽど熱いですね。(夏エヴァに関しては)あんなに覚めてるものを作ったのは初めてというか。」

竹熊

「だから今回、庵野さんがすごくリラックスして撮ったような印象がありますね。『ラブ & ポップ』で。」

庵野

「結果としてそうなった。」

竹熊

「これ、『エヴァ』から回復する、一種のリハビリになったんですか。」

庵野

「いやリハビリというか。『エヴァ』が終わっちゃえば、僕はそれでいいんですよ。終わりさえすれば、もうOKだから。そういう意味では、夏の『エヴァ』は目的がありました。終わらせるという目的が。終わらせて、スタッフのいい顔を見たいから。こんな僕が作った、スタートからメチャクチャなものに巻き込んで……。」

竹熊

「いい顔を、皆しましたか?(笑)」

庵野

「してくれました。良かったですね。その顔を見てなんか、ああやって良かったと。過程としての春を含めて、『エヴァンゲリオン』はなんとか続けて良かったと。」

AVのAVを撮りたい

庵野

「なんていうか、こうやってるインタビューにも、ところどころヤラセとウソがあるんですけど。」

竹熊

「え?」

庵野

「いや、こういうインタビューには、けっこうヤラセとかウソがあるでしょう。だけどフィルムだけはないですからね。」

竹熊

「これはやられましたね(笑)。」

庵野

「本当のことは言わないでしょう。全部、フィルムに行っちゃってるわけですから。インタビューは、身も蓋もなく言ってしまえば、全て宣伝文句ですからね。」

竹熊

「うん。だから僕もね、今日、聞くことなくてね(笑)。おっしゃる通り作品見ればいいわけだし。『エヴァ』は違うんです。あれは作品というより現象とか、事件とか、そういうものですから。『ラブ & ポップ』は作品なんですよ。そうすると、実は聞くことがないんで。まあ、今日はなんか、こういうカメラも回ってるし(笑)。」

庵野

「(横でカメラを回しているバクシーシ山下氏を眺めて)実はですね、次はバクシーシ山下さんとカンパニー松尾さんの追っ掛けをやりたいという希望があるんですよ。AV撮影現場の。」

竹熊

「あ、山下さんや松尾さんのドキュメンタリーを?」

庵野

「ええ、撮られたら、撮りかえせっていうのが(笑)。でも松尾さんには、取材拒否されるかも知れない。ハメ撮りは二人の世界だから、第三者は存在しないんだそうです。だから僕は、その時、空気になりますと(笑)。いや、その部屋の単なるオブジェになりますから、気にせず二人でやってくださいと。女優さんとは、一切口をききません。ただひたすら回しますと。

あと、逆ハメ撮りを。3Pをですね。3Pをお互いにハメ撮りでやれば、面白いものになるかなと思いますけど。まあ、向かいにいる男が、両方とも同じカメラを持ってるっていうのも、妙な映像でいいと思うんですけれど。」

竹熊

「それはいい(笑)。バクシーシさんも、一度やるべきです。なにしろ彼は常にずるい立場でいるわけだから。変な人たちにトンデモない行為させて、それを観察日記みたいに撮って。」

庵野

「そう。そうなんですよ。そこへこっちもカメラ持って踏み込んで(笑)。いや、バクシーシさんって、ちょっと(本人の内面が)見えないのが、面白いんですよ。」

山下

「僕の現場なら、いつでもけっこうで。」

庵野

「こっちがちょっと落ちついたら、なんか週一ぐらいで、お邪魔できればなと。最初は僕もAV撮りたいと思ったんですけど、突き詰めて考えるとAVそのものを撮りたいのではなくて、AVを撮ってる人と、撮られてる人を撮ってみたい。そういうことなんだと、つい最近気がついて。」

竹熊

「ああ、ついでにそれのメイキングをやらせてくださいよ、僕に(笑)。バクシーシ山下を撮っている庵野さんを撮る。まあ撮らなくても、文章でもいいんだけど。」

庵野

「ただいかんせん、発表する媒体がない(笑)。でも、年内にできれば。今年は僕、監督作品が四本ですよ。春、夏、秋と監督やって、それで年内にもう一本やれるとしたら、AVのAVしかない。バクシーシ山下さんの一日とか。」

竹熊

「でもバクシーシさんが一日寝てたら、どうするんですか。」

庵野

「その時は、寝てるさまを。」

竹熊

「ウォーホルですよ、それじゃ(笑)。」

―約一時間半で、インタビュー終了。

予定調和と誘導尋問に満ち溢れた当方の質問を、ひたすら外しまくる庵野秀明。こういう人を俗にインタビュアー泣かせというが、これは、そういう質問しか用意できないインタビュアーが悪い。

反省しながら帰宅する途中、ふいに「あ、あれ聞いときゃよかったかな」という質問を思い出した。それは僕が勝手に想像したラストシーンの元ネタなのだが……。庵野さんには「関係ないっス」と言われるかもしれない。が、あのシーンにその元ネタの「気分」を当てはめると、僕の中の『ラブ & ポップ』はスッキリ解決するのだ。でもまあ、万一当たってたとしても、クイズじゃあるまいし、作者にそれを答える義務などない。

ところで、これだけは確かに思えることを最後に予言しておこう。「自分の監督生命はあと数年」なんてペシミスティックな言辞を吐く庵野さんだが、40代、50代になってもこの人、「あと数年」と言い続けるんじゃないですかね。

  • 投稿者: Haimu
  • 2007年07月27日 16:42

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