世代をこえて共有するSF精神!: 序破急

庵野秀明や貞本義行の発言集、作品に関連する資料など

世代をこえて共有するSF精神!
SF Japan MILLENNIUM:00 より

小松左京×庵野秀明

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―今、周りを見回してみる。パソコン・携帯電話・DVDなどなど。

TVを見てみる。クローン羊・宇宙ステーション計画・ゲノム解析・まだまだいろいろ。

ソフトのほうに目を向けても、映画・小説・マンガ・ゲーム――そこではアンドロイドだって、ワープだって、エイリアンだって、あまりにふつう。正直言って古いくらい。意味を知らない小学生なんていやしない。

どこにも、ここにも、日本中にSFの色が混ざっている……いつの間にかこうなったけど、自然とこうなった訳じゃあない。

今回「SF Japan」では、『日本SF播種計画』の経過報告として、種をまいた代表として小松左京氏を、その種が開花したSF畑で育った世代として庵野秀明氏のおふたりをお呼びして、話を伺ってみた。

生まれも育ちも、日本SFです

小松

「庵野くんの出身は?」

庵野

「山口県です。」

小松

「生まれたのは、何年?」

庵野

「1960年ですね。」

小松

「そうか。「SFマガジン」のスタートが60年の2月号からだから、本当に日本のSFと同じ歳くらいなんだ。関S連(関西学生SF研究会連盟)出身だと聞いているんだけれども。」

庵野

「ええ。」

小松

「なにを思ってまた、そんな(笑)。」

庵野

「まあ、なんとなく(笑)。僕は、あまり自分ではファン活動していなかったんですけど、ある時友達に誘われたんです。京都に“ソラリス”というSFファンのたまり場になっている喫茶店があって、高校時代の友達が、そこの常連だったんです。そいつが、SF大会というファンのイベントがあるんだけれども、ちょっとそこでアニメを作ってみないかと。」

小松

「大ざっぱな話だなあ。」

「「DAICON Ⅲ」(1981年度・第20回日本SF大会)。そこで作られたのが、いまや伝説の「DAICONフィルム」ですね。」

庵野

「そうです。さっきの“ソラリス”に行って、その時はじめて岡田さん(岡田斗志夫。今ではオタク学の権威)や、武田さん(武田康廣。現GAINAX統括本部長)と会った。」

小松

「いわゆる関西芸人と呼ばれていたメンバーだな。あの当時の関S連にはね、面白い人間がたくさんいたな。」

庵野

「たしかに面白い人たちでした(笑)。エネルギッシュで、もうやたらと東京のファンに対して闘志を燃やしていた。東京もんには負けんと。東京で開催するSF大会がオープニング・フィルムを作るという噂を聞いて、じゃあうちはアニメだと……。」

小松

「それまではアニメーターになろうと全然考えてなかったの。」

庵野

「アニメは好きでしたけど、自分がアニメーターになろうなんて全く思ってなかったんです。まあ、成り行きまかせでしたね。」

小松

「山口の高校から、大阪のどこの大学にはいったの。」

庵野

「大阪芸大です。」

小松

「へえ、大阪芸大なら講師をやっていたよ。たしか三年間だったかな。」

「いつぐらいですか。庵野さんはその授業を受けてらしたりとかしました?」

庵野

「もういらっしゃらなかったですね。小松さんがいらしたのなら、僕はきっと授業に出てると思うんです。まあ卒業しないで、途中で出ちゃいましたけど。」

小松

「あれだけむちゃくちゃな校風の大学というのはなかったな(笑)。でも、庵野くんも出たし、中島らもや松尾貴史も出たし、りっぱな学校だろう。」

庵野

「出た人はそう思っていない(笑)。」

こうしてSFに捕まった

小松

「庵野くんは、世代的にはテレビアニメの影響をうんと受けているんだろうね。」

庵野

「ええ、直撃ですね。」

小松

「どんなのが印象に残ってる。」

庵野

「一番古い記憶は『鉄人28号』です。」

小松

「そうか、なるほど。」

庵野

「この間、LDを買って見直したらけっこう細かくセリフを覚えてましたね。やっぱり、ここらが僕にとっての原点ですね。」

小松

「手塚治虫さんからの影響というのはなかったの?」

庵野

「僕は手塚さんからの影響はあまり受けなかったんです。読んでいたんですけれど、そんなに手塚信仰には行かなかった。」

小松

「じゃあ、石ノ森章太郎さんあたり。」

庵野

「そうですね。あとは永井豪さん。僕は『デビルマン』世代なんで。」

小松

「あとは『マジンガーZ』か。原体験が『鉄人28号』で、両方とも“ロボットもの”だな。」

庵野

「そう、でかいロボットには惹かれましたね。あとは、船とか。小松さんにとってはロボットって、どんなイメージですか。」

小松

「やっぱり、すごいのは手塚治虫さんの『鉄腕アトム』ですよ。そのもっと前だと、海野十三の作品に「人造人間F氏」というロボットが出てくる短篇があってね。これが怖いSFだったの。可愛らしい小学生の格好をしたロボットが、いわゆる悪い奴、アメリカのスパイみたいな形で活動するという話。もちろんカレル・チャペックの『R.U.R.』も読んではいたけれど、チャペックの作品だと、どちらかというと『山椒魚戦争』のほうに影響を受けた。『日本アパッチ族』の構成の中には、実は『山椒魚戦争』の要素が入っていたりしてね。それで、『鉄人28号』以外の映像作品で印象に残っているものは?」

庵野

「あとは『エイトマン』とか『スーパージェッター』とかですね。」

小松

「70年代のテレビシリーズというと、『宇宙家族ロビンソン』なんてのが面白かったな。子供が喜んで見ていたんだけれど、実は私も喜んで見ていたんだ(笑)。『宇宙家族ロビンソン』が放映されていた頃、庵野さんは高校生ぐらいだったのかな。」

庵野

「もっと前、たぶん小学校の頃だったと思います。昔は、頻繁に再放送されてましたから。夏休みにまとめてとか。『スタートレック』、あの頃だと『宇宙大戦争』も、そうですね。朝の10時半から、楽しみに見ていた覚えがあります。」

小松

「じゃあ、庵野くんの場合、テレビやアニメ、マンガ作品を通してSFについての土壌ができた感じなんだ。小説としてのSFはその後になるんだ。」

庵野

「そうですね。僕にとって、子供の頃から、SFはビジュアルがベースなんです。アニメやテレビドラマといったビジュアル作品から入っていって、中学の頃、最初に星新一さんのショートショートを読んだんです。あれでSFにはまりました。」

小松

「へえー、どんなのを読んだの?」

庵野

「いや、もうまとめてほとんど読みましたね、ショートショートは。友達の本を学校で借りて、家で読んで次の日に返して新しいのを貸してもらって。中学一年ぐらいだったかな。小松さんの作品で最初に読んだのは、やっぱり『日本沈没』ですね。それから、小松さんの作品はかなり読みました。」

「『日本沈没』は、テレビや映画もありましたし、漫画にもなりましたね。」

庵野

「テレビは毎週観てました。LDも買いました。ご当地もので、毎週主人公が行くところが沈んでいく(笑)。豪華ですよね。京都の回は特撮もすごい。今のテレビではもうやれないでしょう。」

小松

「漫画はさいとう・たかをさんがぜひやりたいと言って「少年チャンピオン」に連載したんだ。」

庵野

「ええ、読んでました。大阪万博はその少し前ですよね。」

小松

「70年か。」

庵野

「当時10歳、小学校の五年生でした。大阪に叔父がいて、一緒にソ連館に行ったのを覚えてます。五時間ぐらいは並びました。当時、未来って明るいものだったじゃないですか。それが、ほんの数年で『日本沈没』や『ノストラダムスの大予言』が出てくると、価値観があっというまに変わってしまった。石油ショックが起こって、スーパーの店頭からトイレットペーパーはなくなるし、生活を良くすると言われていた工場が、公害問題が起きていきなり悪者にされてしまう。」

小松

「『日本沈没』はね、アイデアが生まれてから、実際に書き上がるまでに九年かかっているんだ。『日本アパッチ族』から『復活の日』と立て続けに二冊の長篇を書き上げた頃、ちょうどプレートテクトニクスという大陸移動説の理論が発表されてね、これは面白そうだなと思ったんだ。それで資料を集めたり、勉強を始めたわけだけれども、日本列島を沈没させるまでに九年かかったんだよ。だから時代の変化と発表のタイミングは、偶然だったんだけど。」

喪失と終末を超えて

庵野

「小松さんの作品には、大きなものを喪失する――なくなるという話が多くて、それが好きだったんです。『日本沈没』も日本人という存在はもちろん、日本列島そのものがなくなるという部分に惹かれたんです。『物体O』や『首都消失』は首都機能がいっきになくなる。」

小松

「実は処女長編の『日本アパッチ族』もそうなんだよね。鉄を食う化け物みたいなやつが、それこそ世界を食い尽くす。最後には日本そのものをってところがね(笑)。」

庵野

「『さよならジュピター』も、木星が。」

小松

「あれは地球がなくなるかもしれないという前提で……。」

庵野

「地球の代わりに木星にしましょうという(笑)。」

小松

「私の中にある“失う”ということに対するこだわりはね、終戦の経験から生まれてきたものなんだ。」

庵野

「戦後の焼け野原が原点にあるということですか。」

小松

「それはね、あとで判ってくるんだけれども、当時の私たちは少年時代にそれこそ一億玉砕という大義の下で生きていたわけだ。それが昭和20年の8月15日が来て、終戦の詔勅がされていきなり終戦を迎えた。最初のうちは、何が起きたのか判らないものだから、まだ動員先の工場で作業を続けていたわけ。そのうちに日本は負けたんだという実感が湧いてきたんだね。しかし、その時に日本がなくならなかったというのは、正直すごいことだなと思ったんだ。敗戦によって、日本は全部アメリカ領になっちゃうと思っていたんだもの。でも、庵野くんはなぜ、“なくなること”に興味があるの。」

庵野

「破壊に対する憧れみたいなものが、あるんじゃないですかね。ウルトラマンとか怪獣が好きなのは、やっぱりビルを壊すことに対する憧れですよね。現代人としての窮屈な思いがあって、なんか秩序の破壊みたいなもの、システムを壊してまわるものに惹かれてしまう。」

「『日本沈没』は、アイデアが生まれてから形になるまで九年かかったとおっしゃいましたが、庵野さんもご自分のアイデアを作品にするのには時間を必要とされるほうですか。」

庵野

「『新世紀エヴァンゲリオン』も、もととなるアイデアを思いついてから、実際に作品になるまでに四年かかっています。」

小松

「庵野さんの監督した『新世紀エヴァンゲリオン』の中でね、ちょっと気になったことがあるんだ。「エヴァンゲリオン」って言葉自体、キリスト教の終末思想に出てくる考え方なんだけれども、そんな意味合いのタイトルを自分の作品に付けた理由というのは何だったの。」

庵野

「実は、そんなに深い意味はないんです(笑)。こう言うと、怒られそうだけれど。もとの言葉の意味は、「勝利の声」とか、確かそういうものですよね。」

小松

「そうそう。」

庵野

「実は、その「勝利の声」を聞くというイメージが先にあって。なんか幸せをもたらしてくださいという漠然とした理由でつけたものなんですよ。」

小松

「終末思想みたいなものが出てきたのはどうしてなの?」

庵野

「その場での思いつきです(笑)。」

小松

「ひどいな、ほんと(笑)。でも、そんな中からあれだけ重厚な物語を描きあげたというのは確かにすげえや。」

「『新世紀エヴァンゲリオン』は、これまでいろいろ言われてきましたけれど、神学なり進化論なり、そういったものを一番正面から扱ったアニメだと言えますよね。」

庵野

「ただのペダンティズムですよ。」

小松

「じゃあ、特にキリスト教に興味があったというわけじゃあ……。」

庵野

「ないんです。まあ、物語を構築するための便利な素材ですかね。日本には、原則的に宗教はそぐわないと思うんですね。土着感みたいなもの、アニミズムみたいなものしか育たない。生活の中には一見、仏教がベースになっているように見える部分がありますけど、実は葬式の時くらいしか役に立たない。」

小松

「日本固有の宗教は、一種のアニミズムだと言われるけど、これは単純な汎アニミズムじゃなくて、山には山の神がいて、川には川の神様がいてという風にね、この世の全てが信仰の対象になってしまうという特徴があるんだ。最初のうちは、こんなものは原始的で恥ずかしいからやめろという意見が、明治時代、それから戦争直後に出てくるんだな。」

心のリアリティ

「庵野さんは、便利な素材とおっしゃいましたけれども、その構造についてはどう思われますか。ニーチェが「神は死んだ」といっても、なら「神を造ろう」というのがSF的な発想じゃないですか。『エヴァンゲリオン』でも、そういった部分がありますよね。」

庵野

「もともと神様は人が造るもんですからね。超越者というのは、いるとは思うんですけど、そのイメージは造られたものにすぎない。人それぞれの神様がいて僕はかまわないと思うんです。ようは宗教を否定するつもりは全然ないんですよ。ただ、みんなが共通の神を持つ必要はないと思ってますね。」

小松

「それからね、ダーウィンの進化論。あれは近代科学の大元になっているけども、最後のところで一番進化しているのは、やはり人間だという部分がある。でも、どうも人間というのは、それほど偉くはないんじゃないかと思ったわけ。だから私は、他にもっと偉いやつがいるかもと考えて、宇宙人がでてくるような設定の物語をSFとして書くようになった訳だ。

「勝利の声」ってさっきでたけど、庵野くんは救済についてはどう考えているの?」

庵野

「『エヴァンゲリオン』にも救済っぽい話は、盛り込んであるんですが、真の救済にはなってないんですよ。あれは人類の行く先はなんだろうということを考えながら、キリスト教的なものを借りてスタートした作品なんです。人の進化とか存在理由について考えながら、人間の行く先について、何かを創ってみようとした感じでしょうか。」

「庵野さんの作品に出てくるのは、人間とはコンタクトしづらいタイプの宇宙人や生命体ですよね。」

庵野

「宇宙人は訳の判らないもののほうがリアルでしょう。テレビで見られる宇宙人って、初めて来たはずの地球で、それも日本語を喋ってみせるわけでしょう。こんなのは宇宙人じゃないと思っているから(笑)。」

「エヴァとかリリスは知的生命体だったんですかね。」

庵野

「僕が気にしていたのは、知性の部分というよりも、心があるかないか、そういう部分なんですね。要は魂の問題。心と身体は二元論で語られることが多いけど、僕は表裏一体だと思っているんで。」

「小松さん、魂というか、心の問題についてはどうお考えでしょうか?」

小松

「心というのはね、哺乳類ぐらいならば意外に共有できると思っているんだ。でもこれが異星種族となると話は別だろう。知性には、人間とコンタクトできない知性というのもありえる。そういうものを突き詰めていくのがSFの面白さじゃないかな。『宇宙大作戦』みたいな、あんな都合のいい世界だったらいいけど。」

庵野

「実際に突き詰めるとそうなると思います。『スタートレック』は嫌いじゃないですけど、そんなにはまってはいないんです。なんかアメリカ人の傲慢さが見えててね。行く先の星々の原住民を感化していくというか啓蒙していく話や、最前線の基地では、そこの一番偉い女性とロマンスがある。もう、アメリカの帝国主義そのものという気がしてね。」

小松

「帝国主義というよりも、キリスト教的な正義感の押しつけなんだ。」

庵野

「なんかこうマルクス主義の人たちが、原始的なものとして描かれてますよね。ああいうアメリカ的な世界観というのには、どうもなじめなくて。エンタープライズ号は、カッコいいと思うんですけどね。」

SFとともに

小松

「『エヴァンゲリオン』は、一大ブームになったんだけど、本人は実感があったの?」

庵野

「うーん、どうだったんだろう。視聴率はそんなに上がらなくとも、ビデオやLDがある程度売れてくれればいいやって感じでいましたから。それが“ある程度”の予定の数十倍も売れてしまって。日本という国は、そんなにも病んでいるんだなと実感しましたね(笑)。」

「『新世紀エヴァンゲリオン』は、第18回の日本SF大賞を受賞しているんですが、SFを創るんだという発想が最初からあったんですか。」

庵野

「あの作品は、あくまでもロボットアニメですね。スタッフの中枢にSF好きがいるんでつい専門用語を使ったりしてしまいましたけど。SFという意味では、『トップをねらえ!』のほうがSFを意識してました。」

小松

「じゃあ、SF大賞をもらってびっくりしたのかい。」

庵野

「これがSFでいいんですかと、思いました。」

小松

「なるほどね。」

庵野

「ただ、SFか否かというのは、作品の根底に流れているもの、古い言葉ですけれど“SFマインド”の問題だと思うんです。80年代、僕が大学生の頃は、ひっきりなしにこれはSFマインドがあるけれど、これにはないとか、みんなで言ってましたよね。確かにそういうものはあると思うんです。でも、『エヴァンゲリオン』に関しては、SFとしての完成度を高めようなんて意識はなかった。だけど、結果としてSFになっているというのなら、もう自分の根底にSFマインドというものが染みついているんで、意識しないでも滲み出ているということなのかなあと思ってます。小松さんたちのおかげで、いつの間にかこうなってしまった(笑)。」

小松

「まあ「SFマガジン」と同じ年に生まれてるんだから、あきらめて一生つきあっていくしかないよ(笑)。私なんてとっくにあきらめてるもの。」

  • 投稿者: Haimu
  • 2007年07月27日 19:11

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