庵野秀明、貞本義行、山賀博之の発言集、作品に関する資料などを掲載
貞本義行の描くイラストには、重みを感じさせる落ち着いた雰囲気の中にも人の目を惹きつけてやまない「華」がある。それは、まんが絵の中に、油絵や水彩画などの絵画的な手法・感覚を取り入れるという「まんがと絵画の融合」を目指した結果だった。
毎月、愛知と東京を行き来する単身赴任まんが家として、多忙な日々を送る貞本先生。温厚な笑みを絶やさず、アニメやまんがについて熱く語る姿には、これまで以上に情熱が感じられました。
絵画とまんが
――貞本先生といえば、人物もメカも描ける稀有なクリエイターとして有名ですが、子供の頃から潜水艦や飛行機などを描いていたそうですね。
- 貞本
ええ、五つ上の兄の影響で、昔から車とか飛行機とかが好きでしたね。小学校低学年の頃がちょうど「仮面ライダー」や「キカイダー」などの特撮ヒーロー物の全盛期で、「ウルトラマン」やITCの「サンダーバード」なども始まっていたので、それらのプラモデルを交えてハマってました。
――では、キャラクターを意識したのは、何がきっかけだったんですか?
- 貞本
小学3、4年の頃に、初めて手塚治虫さんの存在を知って「この人が神様なのか」と思いながら読んでいたんですが(笑)、子供の目から見ると、やっぱり永井豪さんみたいな派手な作風に惹かれるんですね。「マジンガーZ」や、松本零士さんの戦場まんがシリーズは特に夢中になって読んでいました。キャラクターを意識し始めたのもその頃で、そういう意味でも、このお2人には強く影響を受けていると思います。
――カラーで影響を受けた方は?
- 貞本
中高生の頃によく真似したのは松本零士さんです。あの光がうねるような独特の宇宙が不思議で仕方なかったんですよ。カラーの場合、普通はムラなく綺麗に塗るという発想をするのに、松本さんはムラを絵の味として入れる、という考え方をもってらして。その方法は「絵画」に通じるものだと気づいて、それ以来、まんがと絵画の融合を意識して描くようになりました。あと、僕がこの業界に入った頃に、エンキ・ビラルさんの、しっとりと重たい色調の中にドンと鮮やかな色が入っている色味に強く影響を受けましたね。
――画材は昔から水彩ガッシュを使われているんですか?
- 貞本
そうですね。あとは修正するのにアクリルガッシュを使うくらいで。マーカーも色さえ気に入ればニッカーでもホルベインでもこだわらず使っています。
――「オネアミスの翼」を作られた頃は、かなり淡い色彩でしたよね。
- 貞本
当時は宮崎駿さんの影響が強くて、アニメのイメージボードというのはこういうものだという意識があったんです。淡い色使いで、輪郭もやや曖昧な感じの…実際は曖昧じゃないんですけど。少しずつ色を重ねて深くしていくという王道な淡彩の描き方で、あれはきちんと計算しながら描いていかないと綺麗に仕上がらないんですよ。僕はわりと考えずに塗っちゃうタイプなんで、ちょっと描いては止めて、途中で「ダメだ!」と思ったら風呂場で全部洗い流したりして(笑)。
――洗うんですか!?
- 貞本
高校のときに油絵や水彩の洗い描きをやったので、それほど抵抗はなかったんです。淡彩も1回塗って洗って、また色を乗せると深みが出ますし、筆のタッチも、少しずつ描いて繊細に見せる方法もありますが、勢いよく大胆に描いて見せたほうが、手仕事の量もわかって味も出ますしね。そういう絵画的な考え方を、まんがに取り入れるようになって、表現に幅が出ましたし、気も楽になりました。この画材じゃなきゃダメとか、決まり事はなるべく作らないようにしているんですよ。
配色は「地味に派手に」
――アナログもCGも主線は鉛筆線ですが、それは淡彩の流れですか?
- 貞本
そうですね。ただ、「ふしぎの海のナディア」くらいからは、意識的に濃く塗るようになったので、主線の上に色鉛筆を重ねることもあります。
――「ふしぎの海のナディア」以降の作品の中でも、特に「新世紀エヴァンゲリオン」(以下、「エヴァ」)はデザイン的に濃い派手さがある配色ですね。
- 貞本
ガイナックスのカラーをどうするか、という話になったときに、「地味に派手に」というコンセプトがあったんですよ。それは伝統みたいなもので、「オネアミスの翼」の頃から僕の中にあって、色調を抑えた中にも、どこか派手な部分を一箇所入れようと意識的にコントロールしているんです。
――CGのソフトはペインターを使われているそうですが、最初、戸惑いませんでしたか?
- 貞本
いまだにわからないことだらけですよ。使い始めた当初は、画面をクローズアップできるので、どんどん描き込みが細かくなって、すごく密度の高い繊細な絵になったり(笑)。それで「これじゃあダメだ」と思って、わざとやり直し機能を使えなくして、拡大も2倍までに抑えるようにして、多少はみ出してもいいやくらいの気持ちで描くようにしたら、アナログのタッチに近くなりました。
――CGを使うと、機能に引きずられてタッチが変わる方もいますが、先生の場合はアナログのいい部分がきちんと活きてますよね。
- 貞本
CGはほとんど独学に近いので、デジタルならではの目新しいことが出来てないだけかもしれないです(笑)。たぶん、数ある機能の100分の1も使ってないと思いますよ。
――先生のように筆に長く馴染んでいると、CGで逆に困ることもあるのでは?
- 貞本
CGだと色の滲みやムラのような、自然に生まれるハプニングが起こりづらいですね。時々、画像をフォトショップの色調変換にかけて、思いがけない色味が生まれて活用することはありますけど、それ以外は狙い通りに出来てしまうので。やっぱり自分でコントロールできない部分が多少はあったほうが、描くほうも緊張感が出ますし、面白みがあります。
――時間的にはCGのほうが早いですか?
- 貞本
どうでしょう。「頭の中にある絵に近づいていくこと=絵の完成」という人なら、CGを使えば時間短縮になると思いますが、僕の場合、「どう諦めるか=絵の完成」なので、1日である程度完成しても、3日くらい試行錯誤しないと諦めきれなくて結局同じなんですよ(苦笑)。
動く作品を作りたい
――CGに変わられてから、アニメ的な派手さが薄れて、重厚感が出てきたように思うのですが、それは意識されてのことですか?
- 貞本
特に意識はしてないんですが…。最近の仕事の内容がパッケージやポスターばかりなので、イメージボードとかだと、また違った雰囲気になるとは思います。
――いまは「エヴァ」一色ですしね。
- 貞本
次の新しいことをやるには、まず「エヴァ」から離れないととは思うんですが、連載もまだ終わる気配もないですし…(笑)。でも、今年は新企画をやる予定なので、そこで新しいものが見えてくればと思います。
――新作はどのような感じですか?
- 貞本
まだちょっとお話できないのですが、かなり面白いスタッフが集まってきてますので、僕も本腰を入れて取り組みたいと思います。「フリクリ」や「.hack」みたいなキャラデザだけの関わり方だと、やっぱり限界があるんですよ。「エヴァ」もそうだったんですけど、作品が波に乗ってしまえば、僕なんかは一絵描きで大した戦力にならないので(笑)、途中で離脱してもかまわないんですが、最初の立ち上げや骨組みはしっかりと練りたいですね。ガイナックスも若手が増えてるので、その人たちとも一緒にやりたいなと思います。
――まんが家として今後の予定は?
- 貞本
以前、『ニュータイプ』で描いた作品が何本かあるんですけど、それを1冊にまとめると言いつつ延びてるので、なんとか作業に入りたいですね。
――まんがとアニメ、両方の制作に携わっていると、感覚の切り替えが大変だと思うのですが…?
- 貞本
そうですね、いまだにまんがを描いていて、どうして動かないんだろうと思うことがありますよ(笑)音楽つけたいなとか、シーンの空気感を見せたいなとか。まんがも好きですけど、やっぱり自分の根底には、動く作品を作りたいという気持ちがあるんだと思います。
――ありがとうございました。
アドバイス
楽しんで描くのは大前提なんですが、人に見せることを意識したときに、どこを見せたいか狙いを定めて描くといいと思います。そのポイントは多ければ多いほどいいのではなく、1~2箇所確実に持って、それを引き立たせるためにどうすればいいかを考えていくんです。キャラの表情でも、画面構成のアイディアでも、なんでもいいので、その絵のウリはどこなのか、ここを見てもらいたいという目的意識を持って描く。他の人の作品を鑑賞するときも、描き手の主義主張を意識して見るようにしてほしいですね。
各記事の内容を示すキーワード
http://johakyu.net/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/563