【.hack 新春対談】貞本義行×浅野真澄: 序破急

庵野秀明、貞本義行、山賀博之の発言集、作品に関する資料などを掲載

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.hack//G.U. TheWorld Vol.2 より

貞本義行×浅野真澄

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成功してる人の話が聞きたいっす!

「一番興味のあること? ブルジョアジーの生活!」

 日ごろからそう豪語してはばからない私の元に、角川書店から1本の電話がかかってきた。

「『.hack//G.U.』の雑誌やるんだけど、読者の代表として、貞本義行さんにインタビューしてみない?」

 おお! 貞本さんと言えば私でも知っている超有名漫画家&キャラクターデザイナー! キャラクターデザインを勤めた「.hack」シリーズは世界で170万本という大ヒットを飛ばしたし、先日書店で見かけた漫画「新世紀エヴァンゲリオン」には「1000万部突破!」という派手な帯がかかっていて、「どひゃー」とのけぞったばかり。

そしてなにより、前作でヒロイン・ブラックローズを演じ、業界一.hackに詳しい声優である私がインタビューすれば、読者のみんなが知りたい情報をバンバン引き出せるはず!

「ぜ、ぜひとも!」。

――こうして私は貞本義行さんに、突撃取材をすることになったのである。

 1月某日。PS2ゲーム「.hack//G.U. vol.1」のパッケージイラストを貞本義行さんが缶詰状態で制作しているらしい、という情報を得た私は、ガイナックスにある貞本さんのデスクを訪れた。四方を囲む大きな本棚。ずらりと並ぶさまざまなフィギュアとアイドル写真集。壁には簡易ベッドと寝袋。マニアな予備校生の秘密基地みたいなデスクで、貞本さんはひとり、パソコンに向かっていた。すぐそばには進行監視役として、プロデューサーのウッチーと原田さん、そしてサイバーコネクトツーの松山さん。3人とも顔は笑っているけれど、手に提げた差し入れのなかにはブラックコーヒーやら濃い味の緑茶、ギラギラしたラベルが貼られた栄養ドリンクがぎっしり。こ、怖いよう。……それにしても。デスクの上にはイラスト、という単語から連想される絵の具や筆の類は一切見当たらず、代わりにあるのはペン型の入力装置とマウスパッドのような板状の機械のみ。貞本さん、これは?

貞本

「鉛筆で描いた絵をスキャンして取り込んで、ペインターというソフトを使って色をつけているところです。このソフトはまるで水彩絵の具のようなタッチが表現できるし、紙の質まで選べるので、色をつけるとき僕はもっぱらこれを使ってます」

 ほえー、ハイテク! イラストってパンくずを消しゴム代わりに使って描いてると思ってたのに! 驚く私の目の前で、貞本さんはどんどん、鉛筆描きの三爪痕(トライエッジ)に色を重ねていく。そう、「vol.1」のパッケージには、三爪痕(トライエッジ)とハセヲ、そしてアトリが描かれることになっているのだ。それぞれのキャラクターをデザインするとき、貞本さんがこだわった点はどこだろう。

貞本

「ハセヲだったら顔のペイント。実は最初の設定では彼のペイントは腕とお腹だけだったんですが、それだとインパクトが足りない気がして。顔にも入れることでぐっと主人公らしくなったと思います。アトリはなんと言ってもかぼちゃパンツ! 最初はミニスカートをはいていたんですが、広いんならこの世界観のなかでいちばん凝ったデザインにしたいよな、と思って、ちょうどそのとき『トップをねらえ2!』の仕事もしていたので、かぼちゃパンツつながりってことで(笑)、監修のとき提案してみました。三爪痕(トライエッジ)は最初のシリーズに出てくるカイトと同じデザインですが、実はカイトはラフの段階では、ベレー帽かぶってゴルフバッグしょってたんですよ!」

 RPGの主人公なのに、ベレー帽? ひと昔前の漫画家さんみたいなイメージだなあ。

貞本

「でしょ? 僕は『.hack』の世界観って、ごちゃまぜで破天荒なところが特徴であり伝統だと思うんですよ。いわゆるRPGの伝統的な世界観から逸脱してて、SFもあり現代的な部分もあり東洋的なところもあり、みたいな。だから、カイトの帽子はベレー帽をやめにして(笑)、素材は古っぽく、でもフォルムはSF風な形に変更しました。同じくバッグも、動きやすい形と大きさにしようってことで、ちょっと現代的に、その当時の流行っていたメッセンジャーバッグみたいなデザインにしました」

 なるほど! 確かに「.hack」の世界観って、わりとなんでもあり! で成立しちゃいますね。

貞本

「実は最初に見せてもらった企画段階では、もっと地味でベタな世界観だったんです。ダンジョンなら、誰もが思い描くいわゆるステレオタイプのダンジョンで(笑)。だからキャラクターデザインをすることになったとき、まず世界観の話からさせてもらって、僕の描く絵はリアルじゃないので、背景となる世界観もリアルを追求するより、誰も見たことのない、新しくて斬新でなんでもありなものにしたかった。そのほうがキャラクターも、文法にのっとらずにデザインできるので」

 へええー! キャラクターデザインって、そういうところまで話をするお仕事なんですね。

貞本

「キャラクターデザインは単なる絵づらのデザインじゃないんです。キャラそのものをデザインしないといけない。ここがすごく重要なんです。その人の生い立ちとか、性格とか、こういうときはこういう反応をする、とか、そういうものをまず最初に全部作ってから、それをどうやって絵で表現するのかを考えていく作業なんです。だから僕は、企画も脚本も全部に目を通してから作ります。よく、キャラデザやりたいんですっていう人の絵を見る機会があるんですけど、キャラの性格が伝わってこない絵がとても多い。スケッチブック上だけの絵づらじゃない、キャラクターをデザインするんだっていう大前提を分かっていないとそうなってしまうんですね」

 なるほど。貞本さんの描くキャラクターたちからにじみ出てくるエロさみたいなものは、しっかり肉付けされ、立体的に作られているからこそ感じられるものなのかも。瀬戸内寂聴さんも「色気がなければ芸術じゃない」って言ってたし。ふむふむ、ナットク。ところで貞本さんは、子供の頃からキャラクターデザインをやりたいって思っていたんですか?

貞本

「子供の頃は漫画家になりたいって思ってました。松本零士さんとか永井豪さんとかが好きで。中学生くらいのときに何かの本で『漫画家になるにはまずアシスタントを経験しなくてはいけない』って読んで、母親に『東京に出て松本零士先生のアシスタントになるぜ!!』って宣言して家出したこともありました。とは言っても、その日の午後には家に帰ってましたけど(笑)。僕の生まれた町はとにかく田舎で、Gペンさえ売ってないようなとこだったので、大学は東京の学校を受けました。で、入学と同時に漫画を描きはじめたんです。見よう見まねでペンを使って、トーンを貼って。そうやって生まれて初めて仕上げた漫画が、少年チャンピオンで賞を受賞したんです。そこから1年くらいは、短編描いたりちょっとした連載をしたりしてましたね。でね、僕、大学では漫画研究会に入ってたんですけど、ある日そこの後輩だった前田真宏ってやつに、『今マクロスってアニメ作ってるんですけど、手伝ってくれない?』って誘われて。面白そうだからついて行ったら、演出やってた山賀博之さんに『原画描かない?』って言われて。そのときの僕はなんの知識もなかったので、ほぼ一夜漬けでアニメーションの仕組みを前田に習って、気づいたらマクロスの9話の原画を描いてた(笑)。そこで、のちに『エヴァンゲリオン』の監督になった庵野秀明にも出会ったんです」

 ひえー。貞本さんすごいっす、まさにトントン拍子人生! 東京に出てきたとたんに漫画家デビューして、才能あふれる人たちと山ほど出会っていい作品作って、そんで『新世紀エヴァンゲリオン』では漫画累計1000万部! これぞ順風満帆人生……!

貞本

「いや、ぜんぜん(笑)。むしろ波乱万丈でした。だってエヴァやる前の1年間なんて、僕はお給料まったくもらってませんでしたから。なんと年収0円(笑)。子供も生まれたのに」

 ……え? ゼ、ゼロ!? なんでまた!?

貞本

「企画が通らない日々が4年間も続いて。で、もうこれじゃ駄目だ、漫画家に専念しようと思って、ガイナックスのデスクも東京の家も全部引き払っちゃった。エヴァンゲリオンの漫画は、本当の崖っぷちの、僕にとって最後の挑戦だったんです。それも、最初は誰も売れるなんて思ってなくて、初版は少なめに刷ったんです。そしたら発売してすぐに重版がかかって、刷る冊数がケタひとつ増えたんですよ。で、それもあっというまに売り切れて翌週さらに倍の冊数を重版して。そのときは『ひと晩にして億万長者ってこのことかー!』って思いました(笑)」

 うはー、スリル満点! まさに奇跡の大逆転!

貞本

「今思えば、辛い時期が沢山あったけど、そうやって苦しみながらも作ってきたものがあるからこそ、こうして『.hack』みたいなオファーがあったりするわけで、頑張ってきてよかったなって思います。『.hack//G.U.』はデモを見せてもらったんですけど、前作と比べても格段にかっこよくなってて。特に光の使い方とかにじみ方とかが本当によくできていて、ありそうもない世界観をありそうだって思わせる説得力があるというか。僕も完成を期待してます」

 なるほど。それは私も楽しみです。

 ところで貞本さん、最後に。漫画が累計1000万部売れると、一体どれくらい印税が入ってくるものなんですか? 私がそう質問すると、貞本さんはおもむろに計算し始めた。

貞本

「えーっと、1冊の値段がこれくらいで、印税の割合がこうだから……」

 ふむふむ。って、んん? わー! 貞本さん、絵、絵!!

貞本

「え? ……ひぃ!」

 な、なんと貞本さんはペン型入力装置を持ったまま計算したものだから、完成間近の三爪痕のちょうど顔面を塗りつぶす形で、まるで落書きのように印税の計算式がくっきりと!

貞本

「ギャー! パッケージイラストがー!」

おたけびを聞きつけてウッチーたちが集まってくる。

「な、なんじゃこりゃ!」

「前回セーブしたところまでやりなおしじゃー!」

「ひぃぃ!! 時間ないのにぃぃぃ!」

 深夜のガイナックスに響き渡るスタッフ一同の阿鼻叫喚。さ、貞本さん。そんな無邪気なところも素敵でございます。――ということで、貞本さんも期待する「.hack//G.U.」。セーブしなおしたパッケージともども、完成をお楽しみに!

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