SPECIAL企画「新世紀エヴァンゲリオン」 貞本義行インタビュー: 序破急

庵野秀明、貞本義行、山賀博之の発言集、作品に関する資料などを掲載

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月刊ぱふ 1996年5月号 より
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「エヴァ」のキャラデザイナーとして、コミック版を『少年エース』に連載している貞本義行。「トップをねらえ!」「ふしぎの海のナディア」と、庵野秀明監督とキャラデザイナー & 作画監督として名コンビを組んできた彼が、今回はアニメ本編の作画には参加せず、コミック版に専念したのは何故なのか? ――その内面に迫ってみた。

まんが版を担当することになった経緯

貞本

コミックス1巻の巻末で、庵野さんが"四年間ボーッとしていた"みたいなことを書いてますけど、実際はCDを作ったり、企画を動かしたり、友人のアニメの作画を手伝う等、色々と活動されていたんです。

 だから庵野さんはいいんだけど、でも僕から見れば、庵野さんが次の作品で動かないと、僕は仕事がないわけじゃないですか。あんたはいいけど、おれはどうするんだ!? みたいな(笑)。

 他の作品の作画をやってみたりもしたんですけど、なんか物足りない。「王立」「トップ」「ナディア」と、ずっと企画段階からメインで入って作ってきたので、単なるデザイナー、単なる作画監督では物足りないんですね。

 で、そんな時期に『ニュータイプ』さんから"まんがを描かないか"という話をいただきまして。「R20」という、五回連載で60ページの中編なんですけど、やってみたら楽しいんですよ。

 僕は19歳の時に、まずまんが家としてデビューして、アパートで一人でシコシコ描いてたり、ネタが出てこなかったりがつらくて、アニメに逃げてきた人なんですけど。でも、まんがにも心残りな部分があったんですね。

 まんがを描くのは、アニメーターとは違って、絵だけではなく演出にまで踏みこんで自分の中のものが表現出来る、というのが久々に楽しいな、というのがあって。

 で、そういう気分の流れの中で「エヴァ」の企画が出てきたんですけど、せっかくまんがを描くのがおもしろいと思ってきてるのに、またそれを忘れてしまうのは嫌だったんですよ。だから「エヴァ」という企画の中のメディアミックスの一環としてまんが版もある、と聞いた時に"おれがやります"と最初に手を上げたんです。

 庵野さんも"それはうれしい"と言ってくれたし。

連載してみて…

貞本

で、連載が始まったわけですけど、最初は原作があるからラクに出来るだろう、アニメ本編も原画くらいなら手伝えるだろう、という目論見があったんですけど、やりはじめると自分のまんがよりもたいへんなんですよ。

 アニメという形で完成形を見せられるわけじゃないですか。まんがは、そこから音をなくして、声優さんの演技をなくして、時間をなくしていく。

そして更に、アニメそのままやってたら、いつまでたっても終わりませんから、ダイジェストにするために、エピソードを減らして、情報を減らして。そうすると、どんどん半端なものになっていって、何も残らない。

 それでも、なんとか"まんが"として完成させなきゃいけないってことで、それならシンジの内面の話をしよう、ということで描いています。

 アニメの雰囲気をそのまままんが化したとしたら、例えば士郎正宗さんとか山下いくとさんのような、情報量の多いマニアなかんじになったと思うんですけど、僕はどちらかというと"少女まんが"を意識していて、女の子にも読んでもらえるような方向性で描いています。

 そういうわけで、とてもアニメ本編までは手伝えませんでした(笑)。

 それから、もうひとつ苦労というかつらいなあと思うのは、まんがって遅いなあ、ということですね。まんがを15か月やってきて、まだTVアニメの5話とか6話。まだアスカを描いていない(笑)。なんか、みんなに置いていかれてしまった気分で、そのへんがつらいな、と(笑)。

毎月のスケジュール

貞本

絵を描いているのは、一か月の内で10日くらいですね。残りの3分の2は、ボーッとしているか、ネームやってるかのどちらか。

 ボーッとしている時間は、絶対に必要なんですよ。『少年エース』さんは、その時間にも仕事を突っ込もうとするんですけど(笑)。

 アシスタントは二人来てもらっていまして、主にトーン貼りをしてもらっています。背景まで、ほとんど自分で描いています。

キャラクターの作り方

貞本

対比で作っていきます。出てくる登場人物をダーッと並べて、役割を決めていく。この人はこういうの、この人はこっち、と。

 だから、後になって新キャラクターを出してくれと言われると、パニックになっちゃう(笑)。計算してキャラクターを置いているのに、増やさんでくれえ、と(笑)。

 レイとアスカは同時発注だったんですけど、対照的なタイプ、陰と陽ということで作りました。

 レイはおかげさまで評判がいいんですけど、僕としては自分の中の恥ずかしい、ドロドロした部分、S願望みたいなもの、を取りだして作ったキャラなんです。今までに描いたことのなかったタイプだったので、あれやこれや悩みながら作りました。

 アスカは、そういう意味では僕の中のM願望の部分が出たキャラです。これは発注もらってすぐに"ナディアだな"と(笑)。

"親"

貞本

「エヴァ」の登場キャラクターは、みんな家族関係や人間関係が崩壊していていますよね。これは、庵野さんから見たリアルな現代社会、なんですよね。そして、14歳の今の子供たちにとってのリアルでもあるかもしれない。家族の関係が奇薄で、友人との間にもATフィールドが張ってあって。

 以前、庵野さんに最終回で"親"にどう結着をつけるかと聞いたら、親を踏みつけて乗り越える、みたいなニュアンスで話していて、でも僕は、それはまだ親にこだわっている証拠だと思うんですよ。

 親を、その悪いところも含めて一個の人格として認める、という気持ちになって初めて親を乗り越えたことになると思うんです。そこで初めて、親をいとおしい者として認識できる。

 月並みなテーマかもしれないですけど、まんがの方ではそういうラストにしたいなと思っているんです。

 TV本編の方はラストを改修したバージョンもあるようなので、まだ何とも言えないですけどね。

恋愛観

貞本

性格が合わないから、という理由で別れる男女っていますけど、あれっておかしいですよね。他人同士なんだから、合わなくて当然、ぴったり合う方がおかしいですよ。

 自分と違うけど魅力を感じるから好き、なはずですよね。

 お互いに悪い部分も認め合った上で、それでもいっしょにいる意味があるから付き合う、結婚する、わけじゃないですか。そして、お互いに少しでも悪いところを直して高め合っていけたらいいですよね。

 お互いに言いたいことはズケズケ言い合える、ATフィールドのとけた状態。これは恋愛ではないけど、ミサトとシンジの関係でそれを描けたらいいなと思っています。

自分は「ネルフ」の中では誰!?

貞本

ネルフという組織がガイナックスだとしたら――まあ、そういう話なんですよ(笑)――庵野さんが自分はゲンドウだって言ってるから、ゲンドウのそばで何もしない奴といったら、冬月かリツコになるのかな(笑)。

 庵野さんとは、お互いに良くも悪くも知り尽くした仲ですね。そういう意味では、他人から見たら、かなり冷めた関係に見えるかもしれない。

 腐れ縁的なところがあって、21話で冬月がゲンドウのことを"こいつ嫌な奴だと思った"とか言ってて、ちょっと冷めたところで付き合っていて、それでいて"目的は同じなんだ、だからいっしょにいれるんだ"というのがあって、僕は冬月なのかなと思いました。

14歳

貞本

"親"にこだわっている一番上限の年齢かな、と。高校生になって"父さん父さん"と言っているのも、ファザコンくさいし(笑)。

 シンジのセリフは、精神的に自分自身を14歳に近付けて、自分自身の言葉で書いているかんじです。

 「オールナイトニッポン」や、アニメの音楽を聞いたりして、自分が14歳だった頃の日常を思い起こしながら書いています。

人生観

貞本

アニメ本編の中の重要なセリフに"逃げちゃダメだ"というのがありますけど、でも逃げちゃうのが、僕にとってのリアルなんですよ。だから、あえてまんがではこのセリフを言わせなかったんですけど。

 ストーリーとして見せるなら、僕は「逃げちゃったダメな僕はどうすればいいのか」ってことがやりたいんです。「R20」というのは、そういう話なんですよ。

 他人から見ても、自分の中でも"逃げ"であるその行為を、あえて本人はしてしまうんです。抽象的に描いてあるんですけど、その人にしかわからない大事な何かがそこにはあるはずだ、と。逃げちゃったからこそ、分かる何かもある。逃げることにも意味がある、というのが僕にとってのリアルな人生観なんです。

 もちろん、ただ逃げ続けていても、それだけで幸せになれるわけじゃなくて、逃げた先で当然がんばらなきゃいけないわけですけど。でも、まず逃げてみればいい。それでダメなら、また戻るなり、他をさがすなりすればいい。

 "逃げちゃダメだ"って枷をはめるのが嫌なんです。

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