庵野秀明、貞本義行、山賀博之の発言集、作品に関する資料などを掲載
庵野秀明×佐藤順一×本郷みつる
「ふしぎの海のナディア」の庵野秀明!
「美少女戦士セーラームーン」の佐藤順一!
「クレヨンしんちゃん」の本郷みつる!ヒット・メーカーの演出家たちが熱く、強く、奔放に語り合う、“熱中座談会”がついに実現!
のるか、そるか!? 飛び交う本音がアニメ界の現在 <いま> を撃つ!!
子供は感性が違うので受けを狙ってもダメなんですよね
「セーラームーン」VS「しんちゃん」
- NT
きょうお集まりいただいた方々は、みなさんともに'59~'60年生まれの実力派演出家ということで、アニメ界の現状、そして、これからのアニメ界について自由に語り合っていただきたいと思います。
- 本郷
こう切りだすとなんですけど、庵野さんが「このままじゃいけないッ!」って言ってたって、この間チラっと聞いたんです。それは、何に対してそう思ってるんですか? 今つくってる作品のことなのか、それともそれを囲むアニメの状況なのか……。
- 庵野
いや、憂えてるのは両方ですけど(笑)。我々アニメをつくる側も見る側も、これで満足していてはイカンのではないかと。安易な原作ものとかお客をバカにしたようなOVAとか、でですね。僕らTV世代はTVのなかにしか共通言語をもっていない情けない世代ですが、それでもやはり、自己は追求しなくちゃならない。現状に対する「馴」と「開き直り」は、何も生まないと思うんです。アニメは商品であると同時に代償的娯楽文化です。そして大衆を無視した文化はいずれ滅びますから。これはもちろん迎合を意図するものではありません。
- 本郷
それなら「セーラームーン」なんか、大衆が支持しているからいいわけですよね。すると佐藤さんは、憂えなくていいと(笑)。
- 佐藤
「セーラームーン」が狙ってそうしているかどうかっていう問題もありますけど(笑)。
- 本郷
でも「セーラームーン」の第1話を見たとき、この作品はこうつくるっていうルールみたいなものに、すごく気を遣ってつくられているなって思いましたよ。作品を引き継ぐスタッフにも、すぐわかるように残せるつくり方っていうか……。
- 庵野
第1話にすべての要素が入っていますからね。あれはおみごとでした。
- 本郷
僕がチーフ・ディレクター(CD)をやらせてもらった作品で、「チンプイ」ってあるんですけど、あんまり当たらなくって(笑)。それで「クレヨンしんちゃん」は、とりあえず当たるアニメにしたから。さっき言ったルールにも気を遣って。まあそれが成功して、受けたとは思わないんですけど……。
- NT
本郷さんが監督された、去年の劇場版(『アクション仮面VSハイグレ魔王』)も当たりましたね。
- 本郷
あれも子供に受けるように作ったつもりはあるんですよ。たとえば映画館で「ドラえもん」を見てると、子供にいちばん受けるのはタヌキと間違えられたドラえもんが、「ボクはタヌキじゃない!」って言うところで(笑)。1時間40分の映画の中でですよ! 大人には受けなくても子供にはそこが思いきりおかしい。感性が違うんですね。だから子供の反応を考えて、劇場版では、絵コンテでこんなギャグじゃ……と思うようなところも入れるようにしたんです。でも試写会でいちばん受けたのは、受けるとは思わなかったところで……(笑)。狙ってもダメなんですよね。
- 庵野
「セーラームーン」の場合も、変に狙わなかったのがよかったですね。佐藤さんのつくる作品にはコモン・センスがある。だからこそ、一般受けするんだと思います。
- 佐藤
そうしようとしてるかもしれませんね。
- 庵野
そうですよ。アニメファンて変ですから(笑)。
- 佐藤
そうですねえ。まぁ僕も人のこと言えませんが。
- 庵野
もちろん僕もです(笑)。
- 本郷
僕はふつうですけど(笑)。「セーラームーン」は一般の人とアニメファンの、両方に人気があると思うんです。でも「しんちゃん」は、アニメファンも見るかもしれないけど、応援してくれるわけじゃないですよね。子供は幼稚園でしんちゃんのマネをしたりするけど、アニメファンは誰も反応しない。なにしろシンエイ動画って、一度もセル盗まれたことがないんですから(笑)。
- 庵野
「エスパー魔美」も?
- 本郷
ええ、盗まれたことがない(笑)。僕はこうつくればアニメ雑誌に載るだろうっていうのはわかるんですけど、一般の人が楽しめるギリギリの範囲に抑えているつもりなんです。
- 庵野
でもイッちゃってる人は、カンタムロボやアクション仮面見てますよ。玄田哲章さんの声にシビレてます(笑)。
- 本郷
アクション仮面は原作のなかに1コマだけ出てたんですけど、ビックリマン・チョコみたいにストーリーをつくって、テレビシリーズの中にちょっとずつ入れてったんですよ。それが意外と、子供の反応がよくて。原作のほうでもどんどん取り入れるようになって、とうとう映画にもなっちゃったりして、おもしろかったですね。「しんちゃん」は最初、原作もそれほど知られていませんでしたから、そういう意味ではわりと自由につくれた部分がありますね。
- 庵野
たぶんそうした「ゆとり」がよかったんだと思いますね。
アニメーションが生き残るには……
- NT
みなさんより20年先輩で宮崎駿さんや富野由悠季さんらがいますけど、同じ演出家として、どう評価されていますか?
- 佐藤
僕が何か違う作品をやりたいと思うとき、その目安として考える方々ですね。でもやっぱり同じ業種の人という感じで、しかもヒット作を出した人…だったんですよね。
- 本郷
自分と比べるっていうより、僕の場合はまず仕事をして、それで評価されるかどうかですから。評価されれば次の仕事がもらえるし、ダメだったら仕事がなくなっちゃうわけだから。富野さんたちもいい仕事をして、それで次の仕事を取ってきたわけだから、結局その人その人の積み重ねであって、クロスしないと思うんですよね。アニメファンのとらえ方だと“庵野秀明は宮崎駿を超えるか!?”ってなるかもしれないけど、僕個人ではもう、仕事しなけりゃどうしようもない。庵野さん、仕事したほうがいいですよ(笑)。
- 庵野
ハハハ、なかなか、仕事が決まらなくって(笑)。
- 佐藤
宮崎さんや富野さんの作品を見ていて、最近自分でマズいと思うことがあって、それは知らないうちに、作品の分析をしているんですよ。なぜ「ガンダム」の展開はこうなったのかとか、宮崎作品はこういうふうに受け入れられたのかとか……。どうしてそれがマズいかというと、あの人たちは作品を、分析から始めてつくってはいないような気がするんですね。「ガンダム」以前の作品を分析して「ガンダム」をつくったとは思えないし、ただやりたいことをやっているって感じがします。それにそういう部分をしている自分には、彼らのようなものを作る要素のひとつが欠けているかもしれないっていう、危機感があるんですよね。まあだからといって、気にしないわけにはいかないでしょうけど(笑)。
- NT
過去のヒット作には、ヒットを支えるつくり手と受け手がいましたけど、今はどうなんでしょう?
- 本郷
つくり手に作品を立ち上げていこうという意識はあっても、それが年の若い人のほうにいくほど、薄くなっていると思うんですよ。子供のときから豊かで、それでずっときてるから、自分だけはこうしようって悩む人っていうのは、相対的に減ってきている気がするんですよね。
- 庵野
悩む必要がないんですよ。浅いところだけ充足してしまってる。あり余る情報と物質によって、飢えや渇きが実在しないですからね。貪欲さがない。今では夜中にご飯が食べたくなって、困った、どうしよう、という問題も――。
- 佐藤
コンビニに行けばいいんだもんね。
- 庵野
そう。その「ありがたさ」が実感できない(笑)。
- 本郷
だから今「ガンダム」をやっても、昔ほどには受けないですよね。やっぱりあの時代にやったから「ガンダム」が受けたんであって、今の時代にやって受けるものっていうのは全然違う。マニア向けのビデオ作品とかだったら、美少女とロボットが出てきて作画がスゴければ(笑)ある程度ペイすると思うけど、テレビアニメはそれじゃ意味がない。そう考えると「セーラームーン」てやっぱり残ると思いますよ。大人まで見てるし、小さい子供の心にも残る。大人になった時思い返して、よかったなあ……と。
- 庵野
そうですね。でも今やってるアニメは一過性のものだと思うんですよ。それはつまり大人になった時に反芻や追体験を望むか、という意味でです。そしてアニメがこれから生き残っていくには、内容と観客の一般化、多様化しかないと思います。脆弱な文化ですからね。ただ、20歳を過ぎたアニメファンや僕らつくり手は、心に持病をもち続けている人たちですからね、悪い意味ではなく。で、アニメっていうのは病人に投与してる薬みたいなもんだと思うんです。だから今、その薬が片寄っていてなおかつ効かなくなってるのが問題だと思っているんですよ、いろんな意味で。もちろんこうしてヒステリックに叫んで見せてもしかたない、と自覚はしています。しかし少なくともアニメファンと制作者は今や斜陽であるということは認識すべきではないかと。たとえそれから得るものが延命だとしてもですね。これを誤解なく少ない誌面で伝えるのは難しいですけど。
アニメーションという“仕事”
- NT
アニメの現場というか、つくり手のほうで、今現在と昔との違いというのはありますか?
- 佐藤
アニメーターの中には動画をただ機械的に割るだけで、見ていてそんな仕事やっておもしろいのかなっていう若い人が多いですね。原画を動きのポイントになる絵としか考えていなくて、それをもとに動画で演技させるということをしない。
- 庵野
ええ、現場が次々と分業、細分化されてしまいましたからね。
- 本郷
昔は原画と動画って、あまり差がない仕事だったらしいですけどね。
- 佐藤
今は専門職として動画がいる。最初にこのキャラクターがこう動くというのがまずあって、それを原画と動画で表現するというのが、今ではまず原画があって、それを動画で割ると動きになるっていうふうに、流れが逆になっちゃった。
- 庵野
描き送りの楽しさとか「動き」のおもしろさを知らないんですよね。本来、原動画はひとつのものなのに(笑)。アニメーターってスゴく難しい職業なんですよ。まず大前提としてうまい絵描きでなくてはならない。と同時に演技者でなおかつカメラマンでなくてもならないという大変創造的な一流の仕事なんですよ、本当は。でもそれを意識していないアニメーターが多いのも事実ですね。せめてレンズの種類や額縁舞台の意味を考えてほしいとも思います。だがしかし、これらをアニメーターがクリアしてフィルムから得られる「快感」はものすごいものなんです。これは自主アニメでも十分味わえるものです。僕も高校生の時の初めて動いたフィルムが忘れられなくて、いまだにアニメを続けていますからね。ただ残念なのはそれを知らないままやめていくアニメーターが多いことです。だからこれからアニメーターになろうと思ってる人は、ほんの数秒でいいから自分で作品をつくって、見たほうが絶対にいい! と思います。
- 本郷
ただアニメーターの技術力っていうか、そういうのは上がっていると思うんですよ。昔はホラ、原作漫画のキャラクターをアニメ用に変えましたっていって、全然似てないのが当たり前でしたけど、今はたとえば「YAWARA!」なんて……。
- 庵野
キャラクターが、原作の絵にそっくりですからね。最近はヘタなアニメーターを探すほうが難しいくらい。
- 本郷
いや……けっこういます(笑)。
- 庵野
いや、10数年前に比べたらもう(笑)。
- 佐藤
今は原作付きの作品がほとんどですけど、原作を好きなアニメーターが作画をやると、絵のスタンスがとりやすいってこともありますよね。原作の嫌いな人よりは好きな人のほうが当然、絵を似せますから。
- NT
ということは、アニメスタッフも、今はサラリーマン化しつつあるということなんでしょうか?
- 本郷
サラリーマンというより、むしろ職人。
- 佐藤
職人ですね、作家じゃなくて。
- 本郷
自分としては、演出屋さんという感じかなあ。“家”じゃなくて“屋”。仕事を任されれば原作者もおもしろがって、普通の人がが普通に見ても楽しいものをつくる。それは必ずしも自分のやりたかったりするものではないんですけど、注文を受けた以上それに沿うものをつくりたいっていうのが希望なんですね。それが商売だし、僕の場合、アニメファンに向けてメッセージ送ってるわけじゃないから。ただそういう以外の作品のちょっとしたところに、遊びみたいなものをいれるから、それを面白がってくれる人がいればこっちもうれしいし……っていう感じですね。
- 庵野
僕は作家というより自作自演の役者に近いタイプだと思います。でも僕らを含めてこれより後の世代には、本物の戯作家って難しいんじゃないですかね。これはもう世代論としてですが。
- NT
最近のアニメーションを見ていて感じるんですが、昔に比べて全体的にレベルアップした代わりに、作品ごとの個性が弱くなっていませんか?
- 庵野
個性はどんどんなくなっていますよ。「しんちゃん」のようないいアニメーションは、少なくなってますね。
- 本郷
「しんちゃん」はあんまり個性的じゃないかもしれない(笑)。
- 庵野
いや、いい絵ですよ。
- 佐藤
今の業界の弱点は、ああいう絵がアニメーターのデザインで出てこないところですね。僕らもオリジナル・キャラクターをつくろうとすると感じるんですけど、しんちゃんの黒丸だけの目のようなものを設定しようとしても、なぜか白目を付けてしまったりとか、よくあるほうにいってしまう。
- 本郷
「しんちゃん」は原作者のカラー原稿では、なんとなく白目があったんです。それが作画監督の小川博司さんが、全部白目なしで、それもふつうなら白目を入れるみさえまでなしでやりたいっていうことで、じゃあ試しにやってみようかと……。で、黒丸の目でやって、変じゃない? などと言われたりもしたんだけど結果的に定着して。アニメのキャラクターって、みんな目の中を白く塗ってあるから、そうするだけでけっこう差別化できるんですよ。
- 佐藤
そういうふうに、どこかで別の方向に向けていい道を探していかないと、今後たとえば「ぼのぼの」みたいなキャラクターが、アニメのオリジナル・デザインで出てくる可能性は少ないですよね。
- 本郷
けれどもコロンブスの卵というか、どこかでオリジナル・キャラクターが受けたりすると、ほかもパーッと続くかもしれませんよ。ホラ、本でも謎本が当たると、ほかでも謎本を出したりするじゃないですか。
- 佐藤
逆に言うと「ちびまる子ちゃん」が出てなかったら、「しんちゃん」もちょっと……っていう感じがありますもんね。
- 本郷
そうですよ。「しんちゃん」と「ちびまる子ちゃん」て、見たことのない人は同じようなアニメだと思ってるんでしょうけど、中身はけっこう違うんですけどね(笑)。
怒り爆発……!? アニメ雑誌をたたけ
- NT
それではみなさん。それぞれの希望として、今後手がけたい作品というのはありますか?
- 本郷
抱負ですか? 幸せな家庭をつくりたい(笑)。今「しんちゃん」の劇場版第2弾(『ブリブリ王国の秘宝』)の追い込みなんですけど、その次の作品で具体的に決まっているものはないですね。もしやれるとすれば、これまでやったジャンル以外の作品はなんでもやってみたいし。ロボット・アニメとか、名作アニメとか……。いい仕事を紹介してください(笑)。とにかく業界の批判とかより、目の前の仕事で精一杯ですから。
- 佐藤
僕はやりたい作品を言っちゃうと、宣言したことになりますから……(笑)。ただこの仕事を始めたときからオリジナル作品に固執しているところがあって、まだ何年かかるかわかりませんが少しずつ下地をつくっていって、そういうことができればいいなあと思っています。ほかにニュータイプで載せていただいている漫画(注・今月号の付録に掲載!)もありますし(笑)、監督中の映画「ユンカース・カム・ヒア」(公開未定)もあります。「セーラームーン」の演出とあわせて、とりあえずそれらをなんとかしたいですね。
- 庵野
僕の次回作はまだ企画段階なので何も言えませんが、今、個人的には、見た人が触発されてアニメをつくりたくなるようなものにしたい、と思っています。今の中高生にもアニメのおもしろさを継承してほしいという願いも込めてですね。僕らには「ヤマト」「ガンダム」「コナン」などがありましたから。そういう作品が今、ちょっとないんですよね。あと、アニメをやっても現場はもうからない、というのも何とかしていきたいですね、少しずつでも。
- 本郷
最近、なんかアニメーターのなり手が減ってきているような気がするんですが、それもやっぱり報酬が安いっていう、先入観があるためですかね?
- 佐藤
まあ、ある意味ではね(笑)。
- 本郷
アニメ雑誌なんてどれ開いても“仕事が大変だ”とか“給料が安い”とか。
- 庵野
タハハ。だいたいアニメ雑誌は、アニメあってのものなのに、深謀遠慮もなくそんなことばかり載せてますからね。問題提議にもなってませんよ。
- 佐藤
アニメーター志望の人が取り上げられても、“私は安くてもアニメーターになりたい!!”って(笑)。そんなになまじり決しなくても、やってみて嫌だったら、辞めればいいのに……。
- 本郷
楽しい仕事だってこれまで伝えてきて、今ごろになって仕事がキツいぞ…なんて言われたら、コノーッ!! って思いますよね(笑)。確かに安いけれども、たとえば彫刻家がいるとするでしょ。その人が自分で彫刻家だって言っても、注文が来なければ一銭にもならない。でもアニメーターだったら動画1枚描けば、その分のお金は安くてもくれますからね。そういう意味では絵が好きだったら、悪くない仕事だと思うんですよ。そういう視点が雑誌を読むとスポーンと抜けちゃってて、“レストランでバイトしたほうが賃金はいい”とか(笑)。確かに即物的に考えればそうなんだけど、肝心な部分を忘れている。
- 庵野
ホラホラ本郷さんもちゃんと、憂いて批判してるじゃないですか。
- 本郷
ああ、庵野さんみたいになってしまった……(笑)。
- NT
厳しい御批判、いたみいります(笑)。それでは今後の御活躍に期待して、座談会を終わらせていただきたいと思います。
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