『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』をはじめとした庵野秀明作品のファンサイト
庵野秀明×岡本喜八
『新世紀エヴァンゲリオン』劇場版公開決定記念、庵野氏が尊敬してやまない岡本喜八氏との対談。
庵野秀明監督が「個人の人生観、フィルムの演出家としても正直、多大な影響も受けている」(LD「激動の昭和史・沖縄決戦」特別寄稿より)という、岡本喜八監督と、写真(映画)について、語り合った。場所は神奈川県・生田にある岡本監督の自宅。作り手同士でなければ語りあえない、写真の秘密の一端が、そこにあった。
スクリーンについて。
- 岡本
拝見しました、ビデオ。
- 庵野
お恥ずかしい限りです。
- 岡本
今朝もう一遍、結局2回見た。初めの見方が悪くて、最初の……。
- AM
「エヴァンゲリオン」。
- 岡本
あれを一番ケツから見ちゃった。
- AM
じゃ、あの最終回ですね。
- 岡本
(参考資料に)“物議を醸した”と書いてあった。最初はよくわからなくて、のっけにあれを見ちゃったもので(笑)。
- 庵野
すみません。お手間かけます。
- 岡本
あれ、順番で見たら、面白かった。
- 庵野
ありがとうございます。さっきから汗が出っぱなしです。(既に緊張している)
- 岡本
「トップをねらえ!」のほうがわかりやすいね。2本目(最終話)がモノクロですね。あれは、多分あれが目立つようにだと思ったけど、最後の“オカエリナサイ”が。
- 庵野
僕の世代は、モノクロからカラーの時代なんです。カラーのありがたみを今の人にもわかってもらおうと(笑)。あれは35のモノクロなんです。
- 岡本
僕はモノクロが好きで、半分近いんじゃないかしら、白黒(の作品)が。
- 庵野
最近は、テレビのCMとかでもモノクロが増えてますね。ポスターにしても。何かハヤってますね。
- 岡本
それから、部分着色とかね。
- 庵野
パートカラーとかですね。きれいなフルカラーにみんな目が慣れちゃってるので、逆にめずらしいんでしょうね、今は。
- 岡本
ただ、今、現像費が高いから、前は白黒用の現像液というのがちゃんと常時あったんだけど、今は、白黒の注文が入ってくると、新しく現像液をつくるから。
- 庵野
カラーだと即日で現像できるんですけど、モノクロは、中1日くれといわれて、ちょっと難儀しましたが、スケジュール的に。ラッシュが、中1日じゃないと、上がってこなかったんですね。
- 岡本
でも、あれは退色しないからね。時間がたつと、プリントは特に……。
- 庵野
赤くなっちゃいますね。
- 岡本
全体がピンクになって、ピンク映画を撮ったんじゃなかったのにと思うのがあったりして(笑)。でも、ネガでも多少は退色していくから。
「肉弾」から4~5年後からは、カラーのほうがはるかにコストが安かった。
- 庵野
「肉弾」は、2度しか見てないんですよ。
- 岡本
2度見れば、充分(笑)。
- 庵野
やりきれなくて、見れないんですよ。見ててすごくつらくなるんです。そのかわり、2度しか見てないんですけど、鮮明に各カットとか覚えてます。切り返しのカットつなぎまで、多分、かなり正確に覚えているんじゃないかと思うんですけど、それぐらいインパクトがありました。逆に、「日本のいちばん長い日」とか「沖縄決戦」は何度も何度も見てるんですよ。一時期、絵コンテやっているときのBGVにしてまして、BGVのつもりが、ついそっちのほうを見て、ああ、3時間つぶしてしまったということになるんですが(笑)。
「沖縄決戦」は、僕が生涯で一番何度も見た映画なんです。のべ100回以上見てますね。
- AM
どうしてそれだけ、気に入ってしまったんでしょうか。
- 庵野
生理的なものだと思うんです。
- 岡本
僕が(撮影に)行ったときは、真文仁から南というのは、まだ遺骨が散乱してて、一方、忠魂碑というか、各県の碑が競争するように建ってて、そんなものを建てるよりは、遺骨を集めた弔うのに金を使ったほうがいいと思ったけどね。だから、あそこの南自体は、じぶんが歩いているところも死体が埋まっているだろうという感じがあって、どうも、いやだったね。
でも、庵野さんの絵なんか見ていると、人がいくらでも出せるから。うらやましい。(実写だと)1人いくらって、すぐ……。今ごろはエキストラは1日6800円なんだけど、当時はドルだった。金がないからっていうんで、沖縄ロケは19人か何かで、20人弱で行った。そうしたら、報道陣が20何人来たわけ。なんで報道陣のほうが多いんだっていうんで、頭に来た(笑)。結局、俳優さんがいないから、僕も出ちゃって、「海が見えませ~ん」という監視長の役をやった。
- AM
ご自身でも出て。
- 岡本
うん。人手不足で。
- AM
そういうことで言うと、アニメは、描けばいいと。
- 岡本
でも、それなりに苦労があるんだろうけど。
- 庵野
あります。実写のほうがうらやましいというのはありますね。絵をやってたら実写にあこがれて、多分、実写をやってたら絵にあこがれると思います。結局、ないものねだりだと思いますけど。アニメは、カメラを動かせないんですよ。最近はCGがあって、それなりに楽になってますけど、それも、まだCGくささというのが残りますからね。
- 岡本
かなり苦労のあとが見えるんだけど、例えば影か何かで、カメラを動かさなくても、人がちゃんと動いたように見せるとか、シャドーか何かで。
- 庵野
アニメだと、どうしてもフィックスがメインになっちゃいますね。あとは2次元的なパンやT・U等しかカメラは動かせないです。背動や回り込みは効率が悪いですね、アニメだと。
- 岡本
テンポもいいし。
- 庵野
テンポは岡本さんの影響を直撃してますね。あれこそアニメに向いていると思うんですけどね、あのテンポ。カットを割るときのおもしろさです。カットの内容じゃなくて、カットが切り替わる瞬間の快感というのが岡本さんの写真にはすごくあると思うんですけど。ですから、フィックスの情報量と、それが切り替わる瞬間ですね。上手にいた人物が下に入れ替わるときの、このシルエットの変化とか、特に、あんなスタンダードみたいな特長のないフレームの形だと、それぐらいしかないと思うんですよ。ナメの使い方にしてもすごくいいと思うんですけど。特にシネスコだと、あれができて、いいですよね。今シネスコがないのがすごく残念なんですけど。ビスタにしても、この中途半端なフレームが……、と思いますよ。スタンダードも嫌いなんですけど、ビスタも中途半端でいやなんです。やはり、写真はシネスコだと思うんですが。
- 岡本
どうしようもないすき間を埋め方が、面白いね。例えば、ビスタサイズまではフルショットでもさまになるし、カウボーイサイズもさまになるんだけど、シネスコと来たら、フルショットで撮っても、カウボーイサイズでも、こっちに何か投げないと、絵にならない。でも、それを利用して、絵づくりが楽しくできる。
- 庵野
あと、シネスコになると、劇場で客が(画面のサイズに合わせて)首を振ってくれるじゃないですか。あれはテレビにはないと思うんですよ。だから、僕は、シネスコ以外は、映画のありがたみというか、写真に意味がないんじゃないかと思うんですけど。
ロングショットについて
- 庵野
「血と砂」もいいです。「戦国野郎」もいいですし。
- 岡本
あれのほうが西部劇風で。
- 庵野
ええ。「戦国野郎」、いいですよね。
- 岡本
助監督を15年たっぷりやったんだけど、大体、監督なんて教えてくれる義務もなければ、権利もないわけで、僕らは、飯を食いながらの雑談とか、移動するときのタクシーの中とか、そんなときに、ボソッボソッて雑談まじりに教えてくれる。そのときに、寄るときは思い切ってとことんまで寄ってけと。それから、引くときはとことんまで引けと。
- 庵野
寄らば寄れ、引けば引け、ですね。
- 岡本
何かきっかけがあったほうが、ボンと行くときに1つのリズムになるから。たばこの灰を、ちょんと落とすだけでも、ボンと大ロングに持っていける。それは、何となく持っていくよりは、こうやったほうがいいというのを聞いてたので。
- 庵野
実際、フィルムでは、どこまで引けるかが勝負ですよね。
- 岡本
でも、結構、引きになってたんじゃないかな。僕らは、あれでもロングショットと言うけどね。
- 庵野
大ロングですよね。俯瞰大ロングとか。
- 岡本
映画館と、ビデオ専門と、テレビ専門というのの違いはロングショットなのね。その前にクローズアップのフラッシュバックがあって、ボンと引くときなんかは、限度が(それぞれで違う)、例えば、感情はアップで出すんじゃなくて、ロングで出そうというときなんかは、かなり引かないとね。
- 庵野
ロングは、どこまで引けるかだと思うんですよ。アニメの場合、その辺は便利なんです。ピュアな絵で表現できますから。ただ、その場合、嘘は描けないので、絵描きがうまくないと話にならないというのは出てきます。その辺は変わらないですよ。芝居のうまい下手が、役者によりけりなのと、絵描きのよりけりという違いですから。アニメだと、撮影部と役者を兼ねている仕事になりますね、アニメーターは。かなりきついと思うんですが、その分、楽しいと思うんです。カメラマンと役者と絵描きまで兼ねていますから。
カット割りのテンポについて。
- 庵野
ああいうカット割りのテンポとかって、生理的なものなんですか? 勘で切るとか、もうここで切ろうと回しているときに決めているとか。
- 岡本
まあ、回しているときに決まっている。最低は2コマなんだけど、でも、最低、まばたきひとつがパチャで8コマ。だから、8コマは大事にしないとだめかなあと思うんだけど。
- 庵野
8か7って聞いたんですけど。確認させないで残すには6。何かをわからすためには最低9コマ必要だと聞いてますが。
- 岡本
僕は4刻み。8ビートじゃないけど、8だと思う。ちょっと目の大きい人のパチクリは12コマとかね。
- 庵野
4と7。2でも、絵だと残っちゃうんですよね。
- 岡本
2コマが、サブリミナル効果?
- 庵野
あれは嘘だと思いますけど。アニメだと、絵なので、情報量が限られているんですよ。だから、見慣れた絵だと、2コマでも十分印象に残っちゃうんですね。動きがあると7ぐらいです。止め画だと、3コマでも、たるいような気がしちゃいます。1だとさすがにわからないですけど、2もあれば十分です。セル面積の多い止め画の場合ですが。
- 岡本
だあら、走るときは8コマ使うのかな、8歩。歩きは大体4歩で十分という感じがあって。だから、4歩に決めちゃうと、あとは、ちょっと崩すと、奇数使っていると、ちょっとあわてているなとか。
- 庵野
戦闘シーンになると、7とか出ちゃうんですけど。
- 岡本
中途半端のほうがいいと思うね。
- 庵野
インサートで7コマ。実際には12ぐらいフィルムを撮って、カッティングのときに、3を落とすとか、6か5落としちゃうんですけどね。アニメの場合は、絵で決めちゃってますから、ここで切るだろうなみたいなところで。AC(アクションカット)以外は、ほとんど。あと、セリフのテンポとか、そういうリズムしかないんですけどね、切るときに。僕は、20分切るのに、12時間ぐらいかけちゃうんですけど。一番長いのは24時間ぐらい、2日にかけて。
- 岡本
大体僕の場合は、編集でもらえる時間が4日ぐらいしかないんだけど、同じ4日もらって、去年、「EAST MEETS WEST」の編集をやったら、どうも、全体的に僕のテンポじゃない。それは、結局、その後でわかったんだけど、脳梗塞があって、去年の2月ごろから、ちょっとおかしかった。もし病気だとわかってたら、もう1日か2日もらって、推敲を何度も何度もやるのをもう1回り、2回りやっておけば、今のテンポになると思うけど。だから、気になってしょうがなくて、この春、編集をやり直したの。
- AM
そのぐらい、気になるものなんですね。
- 岡本
それだけ、自分のテンポが出ないのね。そんなはずじゃないと。だから、そのときに1時間44分40秒に詰まったんですよ。最初やったのは2時間3分。それがそれだけ縮まった。それだけ縮めたら、見違えるようになった。ああ、おれのテンポだと。今度、テレビ朝日で放映するときには、短いやつが出ると思うんだけど。
- 庵野
じゃ、そっちのほうを期待してます。正直、年をとられたのかなと思ったんですけど(笑)。
- 岡本
年もそうだけど、アメリカへ行くと、割と悠々としちゃうところがあってね。年のせいも多分にあるだろう。でも、年は、テンポの場合はあまり関係ないと思うけどね。
- 庵野
リズムですからね。
- 岡本
だから、性格的にちょっと短気なところがあるんだけど、例えばワンシーンを、たまに3分か4分のシーンをワンカットで撮るときなんかは、イライラの限度で切っちゃう、前後は。
- 庵野
僕も、カット尻、必ず切っちゃうんですよ、閉じ口3コマというやつなんですが。だから、セリフ切りになっちゃいますね。かなりタイトな形になってしまうんですけど。
- 岡本
でも、セリフが終わったところでパッとやると、それは、パッパッとならない。1コマか2コマだけちょっと入れると、随分パキッてなっちゃう、こうなっちゃうんだけど、例えば「何? 織田信長?」と言ったのを、「ガ」いっぱいで切っちゃうと、「オダノブナ?」と。
- 庵野
残りが切れないですね。少し残して切る。
- 岡本
ほんの1コマか2コマ。
- 庵野
役者の口が閉じて、それで、パッと切る感じなんですかね。
- 岡本
というよりは、音のあれを、信長の「ガ」が終わって、ほんの1コマか2個まで、こういう感じになると思うんだけど。
- 庵野
セリフの終わりと同時にポンとシーンが変わるとか、ああいうのはすごく気持ちいいんです、見てて。そういうのを教えていただいたのは、岡本監督のフィルムなんです。岡本監督の写真で、体にしみついてしまったものだと思うんですけど。それは結局マネでしかなくて、見られて、恥ずかしくてしようがないです。
- 岡本
それは正しいと思うんです。長年いじくってないと、そういう感じは出ないですよ。根本的に、自分が楽しまなければ、お客も楽しまないと思う。
- 庵野
ええ、そう思います。
登場人物のリアクションについて。
- 岡本
だから、自分が気持ちいいことをやっておけば……、芝居のリアクションが要るところは、お客が見たいほうに、ということだからね。アタックしているほうがいれば、その受けのディフェンス側はどんな顔しているんだろうとお客は思うだろうと(考える)。だからリアクションを入れるんだけど。
- 庵野
必ずといっていいほど、リアクションが入っていますね。
- 岡本
だから、40~50カットの場合、(アタックと、ディフェンスまたはリアクションで)真半分に割っちゃって撮ってる。それは今の若い人には難しいって言うけど、一番楽だと思う、覚えておけばね。
- 庵野
「ブルークリスマス」もいいんですよ。あれ、リアクションが必ず入ってますね。オフ台詞がないというのがよかったんです。フィックスの長回しじゃなくて、必ず切り返しの、オンで行ってますよね。あれがカッコいいっス。どんな小さいリアクションでも、セリフの受けを必ず入れますよね。(手振り入れながら)オッという仲代さんのこういうのも入ってて、あの細かさが徹底してて、よかったです。必ず、何かあったら「はい」っていう返事が入ってますね。「はい」というので切るとか、すごく好きなんです。僕も、コンテとか切っていると必ずそこまで入れてしまうんです。スタッフからは、ちょっとしつこい、と言われるんですけど。
- 岡本
でも、ビデオを拝見してて、親近感というか(笑)。
- 庵野
ありがとうございます。
- 岡本
それはあったから。
- 庵野
「一番好きな監督はどなたか」と言われたら、考える間もなく「岡本喜八」と言ってしまうんですけど。 (もう調子に乗ってる)
- 岡本
どうも恐縮で。
でも、リアクションなしのやつは、たまに見るんだけど、やっぱり延々と続くと、見たいな、見たいな、(相手は)どんな顔してるんだろうと思うと、頭痛くなってくる。
- 庵野
最近は、(そんなことを)客に考えさせるいうふうに行ってしまったんですけどね。これまでちょっと親切に見せすぎたかなと。意図的に見せない方法も、ちょっと考えて。
- 岡本
長回ししていると、それしか手がないものね。
- 庵野
それにもそろそろ飽きてきて、何か新しいものがないかあと思うんですけど。
- 岡本
最近の新しさっていうのは、シーンの中でも「飛ぶ」ってことかなあ。
- 庵野
段取り抜きですよね。あの飛び方の気持ちよさというのはあると思うんですけど。情報操作に近いと思うんですけどね。客に見せるものを決めてて、これだけあれば十分という。
- 岡本
お客のほうが、撮る側より進んでいるからね。だから、かなり飛べるような気がする。
- 庵野
テレビのおかげで、みんな映像を見慣れてますから、そういうのについていけると思うんですよ。だから、新しい文法が出てくるとは思うんですが、逆に今、ヌーベル・バーグとかに戻ってますね。一周しちゃったのかもしれませんが。
目線について。
- 岡本
あれなんかどうなのかな、目線とかの問題。最近、目線を全然……(気にしていないと思えるときがある)。逆に、意識的にとしか思えないんだけど、目線をそっぽ向かせちゃう。本当はこっち側に置くべき目線を、こっちへ持ってきたりなんかして。
- 庵野
僕も、目線は大事だと思います。
- 岡本
だから、アレッと、お客側としては突っかかると思うんだ、多かれ少なかれ。
- 庵野
アニメの場合は、目線をあまり意識しない芝居や演出が多いみたいです。キャラクターデザインがその理由のひとつでもあると思うんですけど。キャラの眼のデザインで、寄り眼がスタンダードだったり、眼のディテールを強調していたりしたら、目線の芝居はちょっとつけづらいですね。
ただ、ウチ(エヴァンゲリオン)のキャラは目線芝居が比較的可能なデザインなので、その辺はこだわってやってました。キャラクターがそのショットでどこを見ているのか、それ以前に、果たして客に眼を見せるかどうかという、ですね。基本的なことだからこそ大事だと考えています。だから絵コンテに「目線こっち」とか、割と指示を入れてます。僕も岡本監督の影響で、カメラ目線がやたらと多いんですよ。
- 岡本
できるだけ近場に(目線がいく)ね。でも、方向としては、AがBを見てしゃべっているとか、BがAにリアクションの目を返すとか、そういうふうにしないと……。
- 庵野
僕の場合、正面のカメラ目線が多くて、絵描きには嫌われるんですけど。絵で描くと正面って描きづらいので、なかなか絵にならないんです。しかし目線があっち見ていると、芝居として難しくて。
- 岡本
目線が近いやつのほうが、力があるね。
- 庵野
ええ、そうなんです。あれ、エネルギーがあって、いいですよ。
- 岡本
あれは、横からやると……。2カメでやるときなんかは、かなり横から片一方は厳しくやっておいて、片一方はルーズなのが、テレビによくあるけど。
- 庵野
半面と正面の切り返しは、あまり好きじゃないんですよ。やっぱり、正面、正面の、カメラ目線同士の切り返しで、そのキャラクターの眼の位置をフレーミングでうまく見せるということですね。枝と、どうしても平面的なものなので、情報として限られちゃうんです。客が、そのカットが切り替わった瞬間、何かを探すかというと、顔が映っていたら、まず眼だと思います。その眼がどういう状態化ということを見せたら、もう切っちゃっていいと思うんです。止まった絵のほうが多いので、テレビ(アニメ)とか。そういう方法論で行くべきだと僕は思うんですけど。だから、目の芝居は大変大事だと思うんですけども、なんかおざなりですよね。
意図的にそういうのをやってれば、まだいいんですけど、どうも見ていると、気がついてないんじゃないかと思います。気にしてないというか。そういうのは、見てて、ちょっとイラつくものがありますが。
- 岡本
それに、アニメの人物というのは、目が大きいから。
- 庵野
あれは、いろいろ物理的な理由があって。目を大きくする、記号的にキャラを処理していかないと、いろんな人に描けない絵になってしまうんです。
- 岡本
でも、目で芝居ができるものね、黒目の位置か何かで。
- 庵野
ええ。でも、絵は絵でしかなくなってしまいますので、そういうのでシリアスな芝居をやるのも、ある一定のものを超えると道化にしかならないというリスクもありますから、難しいところですね、キャラクターデザインは。
監督の仕事。
- 庵野
若い人でも、まだ現場に志のある人が残ってはいますね。
- 岡本
今でもね。
- 庵野
ええ。若干ですけど、そこに期待するしかないと思うんです。アニメーションのほうもまだ残っていますし、あと、実写のほうも、この間、「ガメラ」という……。
- 岡本
大映の。
- 庵野
ええ。特技をやっている樋口君が友だちなんですが、彼のスタッフも大変な現場だったんですけど、やる気だけでがんばってます。そういうところはまだ映画にも残っていると思うんですが、メディアとしては、もう下火になっちゃってますね。
- 岡本
本数自体が、監督になった昭和33年がピークだったからね。当時は、1年に3本ぐらい撮ってたからね。最近みたいに4年に1本みたいになると、こういうことを言いたい、ああいうことも言いたい。それで尺が長くなったりして。
でも、おれは映画は娯楽だと思っている(と同時に)、一言だけども何か言わせてよというのでやっているから。「大誘拐」なんてやろうと思ったのは、原作もかなり面白いんだけど、一言、ラストのほうで、誘拐されたおばあさんが、「お国って、私にとって何やったんやろう」とつぶやくんだけど、それだけ言いたいために撮ったようなものだから。
それがわからなくても、全体が面白ければいいと思うしね。後でわかる。そのときに、こうだよ、こうだよと言われちゃうと、反発したくなるから。
- 庵野
僕もそうです(笑)。
- 岡本
テーマの押し出し方で一番いいのは、そうだと思う。
- 庵野
偽善的なやつって、ダメなんですよ。嘘つけ、と思っちゃいます(笑)。
- 岡本
監督というのは、言いたいことと、やりたいこととあって、それがやり切れたとは思わないけど、それにある程度挑戦したというのは、「江分利満氏の優雅な生活」、よしあしじゃなくて一番好きな映画だけど。でも、会社は一番嫌いだったのね(笑)。もう真っ青になって怒ったからね。「おまえには本は書かせない」と。今まで企画が上ってたやつは棚上げ。その反動で「肉弾」を書いたわけ。何も話が決まってなくて、それでもなおかつ書きたくて、20日ぐらいで書いちゃった。
- 庵野
20日ですから(感心)。
- 岡本
一気に書いちゃった。「江分利満氏」の後の、会社から申し渡されたことに頭に来たから。
- AM
映画監督と映画会社の戦いというのは、作品をつくるのと同じぐらい、いろいろ大変なんですね。
- 岡本
そう。
- 庵野
どこでもあると思います、全部自分で金を出さない限り。アメリカとかに比べれば、まだ楽だと思いますけど。編集権が監督にありますからね。アメリカはプロデューサーが持っている。最終的に「切れ」と来ますからね。
- 岡本
そう、全部金を出している……。
- 庵野
お金を出している人たちが一番強いですからね。
- 岡本
僕らも多少なりとも出しておけば、編集権でもめることないもんね。
- 庵野
編集だけは譲れないですよね。
- 岡本
そう。
- 庵野
最後の仕上げですから。
- 岡本
ネガを持ってって、自分の家のロッカーに入れちゃったりして。
- 庵野
僕もハサミは自分で入れちゃうタイプですね。仕上げはひとりでやることが多かったです。
- 岡本
コンテができていると、粗編だけは(頼んでも)できるんだけど、さっきの話の2コマとか8コマの問題になると、僕らが手をつけないと、自分のリズムが……。
- 庵野
アニメの場合は、ときどき絵がないまま切らなければいけないというのがありますから、それは自分の責任なんですけどやっぱりツライですね。自分もかかるし。ただ、後でセルの無駄が減るので、そこだけはいいですね(笑)。でも、編集は面白いと思うんです。要らないカットがあると、こっちに持ってきたり、カットの順番入れ替えたり、そこでの試行錯誤が、最後の段階で面白い。また、2コマ落とす落とさないで、全然変わりますから。
絵コンテに決め込む。
- 庵野
「幽霊列車」もよかったです。上映会で見たんですが。
- 岡本
あれは楽しんでやった。あれ、助監督ミスで、一日で140~150カット撮ったことがあった。
- 庵野
それはすごい。1日150カットですか!
- 岡本
コンテはちゃんと描いてあるから、そんなに苦労じゃないけど。
- 庵野
確かに、現場で右往左往したら撮れないですよね。
- 岡本
現場で、民主主義でやってたら、とても……。
- 庵野
それは無理です。
- 岡本
ところが、新人でそういう人がいるから、困っちゃうね。
- 庵野
あれは、僕はどうかなと思うんですけどね。映画は、合議制はあり得ないと思うんですよね。
- 岡本
(監督は)独裁者でなければね。
- 庵野
あれは専制君主だと思うんですよ。誰かが決めてかかってやらないと何も前に進まないのと、あとは、個性が出ないと思うんですけどね。
アニメの場合は、絵コンテという設計図を最初につくってしまったら、その設計図どおりにシステムができ上がっているので、その辺は意思統一しやすいんですけど、逆に監督の仕事は、絵コンテを決め込んでしまったら、もう終わりみたいなイメージもありますね。
- 岡本
そういえば(「トップをねらえ!」や「エヴァンゲリオン」の最終話で)、白黒のところがあったんだけど、フラッシュバックのところ、あれはちょっと効果的だったけど、いわゆる素描みたいな絵を、まんんま使っているようなところがあったけど。(絵コンテには)あの程度、描いちゃうのかしら。
- 庵野
描き込んでしまいます。
- 岡本
うん。あの素描は面白いね。逆に、動きを感じたりなんかしてね。
アニメと実写。
- 岡本
……どっちもどっちなんだけど、実写が最高じゃなくて、アニメのほうがかなりこの辺は優位だよというのが絶対にあり得ると思うし。
- 庵野
アニメーションの監督の中には、実写に対するあこがれというか、グチも多いんですよ。ただ、実写の映像をセルの絵に置き換えてスライドさせてるだけだんですね。アニメを実写に近づけたいだけじゃないかと。
- 岡本
それは、そんなこと考えないほうがいいんじゃないかな。
- 庵野
そうなんです。それは、見てて、つらいものがあります。
- 岡本
で、お互いに限界はあるしね。
- AM
岡本さんのつなぎのリズムとか、アニメーションも、みんなちゃんと参考にすればいいのにという話をされていましたね。
- 庵野
アニメって、止めの世界でもあるわけです。止めの世界から止めの世界に変わる瞬間っていうのに快感を求めるのが、一番効率いいと思うんですよ。カットがわりとか、そういうところ。
- AM
岡本さんの映画を見てて。その心地よさを感じたと。
- 庵野
ええ。テレビだと(30分でおおむね動画枚数が)3500枚という制約があるわけです。だから、(満足には)動かせないですよ。だったら、動かせない中でどこに映像としての効率のよさを求めるかといったら、カットがわりにあると思うんです。
- AM
そのカットがわりの気持ちよさという点では、岡本さんの映画って、すごく気持ちいいですよね。
- 庵野
すっごく、気持ちいいです。フィルムという快楽の一つの極みですね。
了
●この対談は96年10月16日(水)、神奈川県川崎市生田区にある、岡本監督の自宅にて行われた。
http://johakyu.net/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/832