庵野秀明、貞本義行、山賀博之の発言集、作品に関する資料などを掲載
S:アニメを制作する側として、いま現在、デジタルに対してどうお考えですか?
「手段として、現場ではデジタルのほうが、アナログに比べて圧倒的に楽です。仕上げの手間がかからないし、少人数でできるとか、いろんなメリットがあるので。かつてアニメ制作におけるデジタルの一番のデメリットは、お金がかかるということだったんですが、今だと、それも軽減したので、もうデジタルが主流じゃないですかね」
S:アナログと同じことを表現するにも、デジタルを使ったほうが楽ですか?
「楽というか、時間がかからないですね」
S:経済的な問題以外に、デジタルでなければ表現できない部分はありますか?
「デジタルでできることの大抵のことはアナログでもできると思うんですが、アナログだと手間がかかるからやらないんです。物理的にも経済的にも負担がかかる。むしろデジタルのほうがいろいろと減ったんではないですかね。負担が。CGにこだわった場合も、CGはCGでしかないので、それ以上のものは出てこないんです。今のところはですね。映像としてはアナログじゃないとできないこともある。ただアニメの場合は、CGとアニメ画だと、差異がなくなってきたので、CGに流れちゃうんですけれどもね。ただ楽というだけで、付加価値が少ないですよね」
S:CGを取り入れる際は、オペレーターが新たに入ってくるんですか?
「そうなると思います。でもだんだん使いやすくなって、オペレーターはいなくなってくるんじゃないですかね。(アニメーターや演出が)直接いじるようになれば。皆そうするだろうし、本来そういうところがCGの一番いいところなんだと思います」
S:『ラブ & ポップ』や『流星課長』では、デジタルビデオ(以下、DV)を使っていますが、DVでしか撮れないものというのがあるのですか?
「そういうものもありますが、それは企画によりけりだと思うんです。Grass-hoppa!はフィルムにこだわっていたので、ビデオを撮りたいといったらちょっと怪訝な顔をされたんです。でも『流星課長』はビデオのほうが向いていると思ったのでそうしました」
S:アニメのストーリーって、テクノロジーの発展をある程度想定して制作していくと思うんですが、いま期待されている技術の分野はありますか?
「あまりないですが、期待というか行きたいのは宇宙旅行ですね。さすがに何億も出すのは無理ですけど。数百万なら、お金を貯めて行きたいと思います。ビジュアルでの疑似体験的には、品川のIMAXで見た映像がよかったです。あれで十分堪能できました。あれに無重力さえあれば、さらにいいんですけど。とりあえず宇宙空間へは生きているうちに行ってみたいですね」
S:未来的な要素を取り入れた作品を作るにあたって、大変なことはなんですか?
「本物の現実社会で巨大ロボットはちょっと無理がある世界ですよね。まあアニメだからと、巨大ロボットを描くのはやってますけれども、絵空事の世界でも、あっという間に過去になっちゃうんですよね、今の時代は。エヴァも作ってた当時は、だいぶ先だと思っていましたが、このままだと2015年もすぐに来ちゃうなあと思います。劇中のセカンドインパクトを設定した年は、もう3年も前に越えちゃいましたからね。ほかのアニメのパトレイバーとかも、90年代の話なんで、圧倒的な過去になってしまうんですよ。
それはまあ、しょうがないんですけれども。あとは、ガンダムみたいに全然違う世紀を設定して、西暦をなくすとか。もっと先にしてしまうとか。あまり未来にして地続き感をなくしてしまうと、観客は「ハイハイそうですか」で、終わってしまう。未来を意識しすぎてあまり生活感がなくなると、お客さんがもう全然ついてきてくれないんです。特にアニメは記号的な画なので、見たこともないデザインの電話機を登場させても、劇中でそれを使うショットを見せないと電話として認識してくれません。その電話機のデザインが見せ場だといいんですが、限られた情報しか描けないアニメでは、一目瞭然で電話機とわかってくれたほうが尺(コマ数)にも労力を割かずに済むんですね。あまり未来っぽくせず、見慣れた風景やモノがあるなかでやりたいというのはそこにあります。別に未来世界を主に描こうとは考えていないので。エヴァンゲリオンも、SFとしてあまり意識してやっていなんですよ。それをしていたのは『トップをねらえ!』くらいですね。僕の中では、エヴァは巨大ロボットものなんです」
S:例えば巨大ロボット技術などについては関心がありますか?
「ホンダのP3は本当に衝撃でした。ニュース23だったと思うんですが、初めて見た時はすごいショックでした。あれと、ゲームの<<ヴァーチャファイター2>>。そのデモを、業界が近いので発売前に見せてもらったことがあったんですが、それはちょっとショックでしたね。セルアニメは、これに勝たなければならないのかと」
S:どこら辺がインパクトありましたか?
「動きとか、3Dの空間ですね。でもそれはファーストインパクトで終わっちゃった感があります。その後、ゲームは、リアルの方向に行っちゃって。それでは実写に勝てないし、アニメにも勝てないんで。すごく中途半端なところに行っちゃってますね」
S:ゲームもそうですし全体的にそういう方向性になっていますね。
「3Dゲームの画面は、写実的ですからね。写実とリアルは違うと思うんです。リアルは感覚なので、(それを表現するのに)記号でも十分なものなんです。それもまた現実とは違うと思いますけれども」
S:ゲーム<<ストリートファイター>>などは、描写からセル画っぽくなっていますよね。
「あの辺は、セルのアニメとそんなに変わりはないですね。まあ自分で動かせるっていう大きな違いはありますが、基本的に僕はゲームをやらないので、おもしろさがわからないんです。今は、暇で時間があってもゲームはやらないですね。なんか上手くならないんですよ。コントローラーの瞬時操作に向いてないんでしょうね。昔テトリスはやってたんですが、途中の何面かがいつまで経ってもクリアできなくって。だんだん“なんで時間潰してまで、嫌な思いをしなければならないのか”と思うようになって、ついにはやらなくなりました。一番続いたのはマージャンゲームです。マージャンは好きだし、急いでボタン押さないで済むし。
ただ、脱衣マージャンになるとダメなんです。なんでこの女は脱がないんだ、と。相手が強いと脱がなくてムカッとくるし。逆に設定がゆるいと、すぐ勝ってしまって面白くないし。結局は、お姉ちゃんが脱ぐよりは、ギリギリのところでマージャンに勝ったほうが気持ちいので、本格的な4人打ちマージャンに移行したんですけど、レベルが強くなるとだんだん勝てなくなってきて暇つぶしじゃなくなってきちゃいましたね。半チャン1回やって、トップ賞とって、さあ寝ようぐらいがちょうどいいのに、勝つまで寝なくなってしまう。でもあれも内容とか複雑になって、やめちゃいました。ハマったと思えるのは、初期の<<信長の野望>>と、<<スーパーロボット大戦>>くらいですよね。まだ音声台詞がないころまでです」
S:結構やってらっしゃるんですね。
「食わず嫌いはやめておこうと。ドラクエとか流行りものも、ある程度は押えておこうとやったんですけど、自分には根付かなかったです。どうも基本的にゲームのおもしろさっていうのが、僕の中ではわからないみたいですね」
S:どちからというと、読書とか。
「いや、本も最近は読まないですね。映画もDVDを買うだけで、全然見ないです」
S:監督なりの感性を養うポイントはどこにあるんですか?
「ニュースとか報道番組を見たり、街をブラブラしたりとか。嫁さんが山歩きが好きなので、最近は山ですね。アニメとか映画はほとんどみたいです。監督さんの中には年間に映画を何百本も見る人はいると思うんですけれども、僕は映画を見る癖がついてないので。見なくても、そんなに苦痛じゃないんですね。おもしろい映画は見たいですけど、見たいと思う映画があまりないのかな。仕事で見てる場合が多いです」
S:コミュニケーションの問題について訊きたいんですが、映画『ラブ & ポップ』では、携帯電話がストーリーのなかで重要なツールになっていると思うんです。テクノロジーの発展によって、人のコミュニケーションがどう変化すると考えていますか?
「携帯電話が圧倒的な人気で普及したのは、これはもう楽だからだと思いますよ。実にパーソナルなツールだし。ツールとしても環境がすごく楽ですよね」
S:今、ご自身も持ってらっしゃるんですか?
「持っちゃってますね。基本的に電話は嫌いなんです。仕事以外でまず電話はしないですね。仕事の電話以外でかかってくるのも嫁さんくらいしかいないです。かける人も嫁さんくらい。送信とかが何ヶ月前のものまで残っていて、本当に使ってないんですね。指の操作が面倒なので、携帯のメールは全然やらないし。けど、やっぱり楽ですよね。携帯があったほうが」
「昔は家に一台しか電話機がなくて、家族で共有していて、彼氏が彼女に電話するときに親が出たらどうしようとか、2回コールして切ったら自分のやつだとか、そういう暗号を送らないと個人にはなかなか繋がらなかった。お姉さんが長電話していると、妹が早く切ってくれみたいな。しょうがないから、近所の公衆電話までわざわざかけにいくという光景が、ちょっと前まではあったんですが、今は見なくなりましたね。テレビの時と同じだと思いますね。より楽チンなもの、考えなくて済むものに、人は流れていくんだと思います。出会い系サイトも、テレクラまで出かけるより、携帯メールのほうが楽ですよね。方法が楽ですし、顔も見ないで済むし、声も聞かないで済む。イージーとかリーズナブルとか、そういうものに次々と流れ込んでますよね
S:それによって社会がどう変化するとお考えですか?
「どんどんゆるくなると思います。伝わり方とかが直接的じゃなくなったということです。
それでも(コミュニケーションを)とった気になれるということですよね。コミュニケーションのうちに入るのかなという。メールだと誰が打っても同じ文字になるから、そこに人格がなくなっちゃうんですね。顔も声も筆跡も名前も、とにかく自分をあまり出さずに、表層的なところでコミュニケーションをとった気になれるのは、やはり楽ですよね。
昔は、寂しくて、どこの誰とも分からない人と話したいと思ったら、とにかく適当な番号にかける行為があったそうです。結果は“キチ●イ”とか言われて切られちゃったそうですが。でも、今は不特定多数に無理なく発信できるじゃないですか。これは楽ですよ。インターネットの掲示板とかには、そんなところがあると思います。そこに書いてみると、喜怒哀楽がその場所で生まれるからコミュニケーションをとった気になれる。おまけに、ムカッとなったら別の掲示板に行ける。それは生身の女の子と付き合うのに比べれば、かなり楽です。主流は、そういう表層的なところに流れて行っちゃうんだな、と思いますね。そういう人は、どんな時代でも一番楽なところに行くので。環境というか、周囲にあわせて動いてるだけなんじゃないですかね」
S:作品の中に、見る側に対してコミュニケーティブな要素と、ディスコミュニケーティブな要素を織り込まれると思うんですが、どちらを重視していますか?
「それは一方向のほうが楽でいいです。ゲームは双方向なので、僕がゲームを作らない理由もそこにあると思うんです。そこまでユーザーに対して、サービスできないですし。映像は一方向で、出しっ放しですからね。双方向も「一対一」だったら、その人に合わせて「塩を薄めにしましょう」とかもできますが、「一対多」だと、なかなかそうはいかないです。エンターテインメントっていうのは、最大多数の最大幸福なので、一番よい加減のところに持っていくだけでしかないと思うんです。やってることは、どちらにシフトするかとか、そういう部分の判断だと思います。ちょっと濃い系にするのか、ちょっと一般的なほうに持っていくかとか」
S:庵野さんが制作されているときはどうなんですか?
「それは企画によりけりですが、たったひとりのためにものを作るのも僕はいいと思いますし、40億の人が感動するようなものもいいと思います。それはなかなか難しいですが、せめて2万人とか、できれば100万人とか、そういうものでしかないと思うんですよね。たったひとりのためにっていうのも、かっこいいと思いますけれどね」
S:自分で企画を立てるほうが楽しいですか?
「いや、そんなことないです。僕は自分がベストだとは全然思っていないので。自分よりおもしろいものは世の中にいっぱいあると思うんですよ。僕はおもしろいほうに賛成なので、監督をやってても、別の人が考えたおもしろいアイデアがあれば、そのほうがいいと思うんです。自分の才能みたいなものを盲信していないし、自分ひとりで考えるよりも、いろいろな人のイメージの集合体を作ってるほうが過程も、できた作品もおもしろいと思いますから。自信を持って、“これがいいんだ”って言える人がうらやましいですね。常々、僕は、これでいいのかなと考えちゃうんですよね。監督がする仕事って、責任をとることしかないんで、まだなんかおもしろくなるんじゃないかと思ってしまいます」
S:『式日』を観て宇部に行ってきたんですが、DVDがいよいよ発売されますね。
「太陽家具(劇中で主人公の女性が住んでいた建物)、2002年の2月になくなっちゃったんですよね。あの辺一体が再開発で、『式日』の風景も今では無くなってしまいました。ギリギリ間に合って、撮れてよかったです。ああいう画はデジタルでは描けないと思います。『式日』は、デジタル処理も混ぜてますけれど、それはデジタルとして、ちょうどいいところを入れてます」
S:デジタルとアナログで、どう使い分けをされているんですか?
「デジタルは、いわゆるCGとかになってしまうんですが、それは、もうヴァーチャルなものなんですよね。本来そこに存在しないものなんです。実写は、すでにそこに存在しているものをカメラで切り取る作業なんです。“そこにすでに存在しているもの”というのは、僕の頭の中で描いているものより、遥かにすごいものがいっぱいあるわけですよ。
自分の頭の中にあるイメージを可能な限り具現化しようと思えば、それはアニメとかCGが作業的にベターなんです。そうではなく、実際に、ここにあるものをきちんと描きたい、ということになれば実写がベターになる。『ラブ & ポップ』は、アニメでは描けない。アニメっぽくはなっちゃうんですが、それはあくまで切り取り方などの技術的な問題で、あの感じは実写/ビデオじゃないとできないです。ドライであり、ちょっとウエットな感じ。その微妙なバランスは、セルでは出せないです。逆にエヴァをあのまま実写に置き換えるのは現実的に難しいと思いますね」
S:村上龍さんの『五分後の世界』は、アニメっぽい感じもするんですが。
「『五分後の世界』はマンガがちょうどいいんじゃないですかね。小説の次に向いているのはマンガだと思うんです。小林源文さんとかの絵柄で。アニメでも難しいんじゃないですかね。実写でも、不可能じゃないですけれども、ものすごく大変です。小説のストーリーのまま実写化するのは、現実的にかなり難しいでしょうね」
S:そうすると、これからも実写やアニメという枠にとらわれずに、その時々にあった方法論でメディアを選ぶということになるんですか?
「実写とか、アニメは、カテゴリーと世間では捉えられていますが、作る側からみれば方法論の違いでしかない。幸い、自分は選ぶ選択肢が増えたのでよかったです。これから映像をやりたい人は、デジタルとかアナログにこだわる必要はないと思います。でもデジタルの良さを肌で実感しようと思ったら、アナログもやってみないとわからないんですよ。アナログもデジタルもやった上で、どっちかなって。両方いいなとか。
アニメと実写になると現場とかも全然変わるので、大きなすみ分けにはなっちゃうんですが、方法論とすれば、デジタルとアナログも両方やればいいと思うんです。過渡期にいた僕らは両方経験できたので、ちょうどよかったと思います。フィルムとデジカメも、両方やるのがいいですよね。いろいろやってみてその度に判断していくのがいいかと思います。
今は、僕もデジタルが増えてきましたね。スチールを撮るのもデジカメだし。基本的には取材写真しか撮らないので、昔は併用してたんですが、やっぱりデジカメのように枚数をいっぱい撮れるほうがいいですね。編集作業もデジタルノンリニアがいいです。ただ、映像そのものは、フィルムにもデジタルにもそれぞれ特徴があるので、企画にあったものをその度に選ぶしかないですね」
「エヴァの映画が終わった時に、アニメではできないことをとにかくやってみようと。どうしてもアニメだと記号論なんです。記号論がちょうどいいポジションの企画っていうのはあると思いますね。でも実写を撮りたいんだけれども、お金がないんで、アニメにするっていうのはいかがなものかと思う。その逆もしかりですね。黒澤明さんの『七人の侍』のようなものをアニメでやろうとしても、それは無茶です。あれは実写だからよかったんだと思います。もっと分解して全然違うものにしてしまえば、可能だとは思いますね
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