庵野秀明、貞本義行、山賀博之の発言集、作品に関する資料などを掲載
『新世紀エヴァンゲリオン』の次作は実写映画だった
『新世紀エヴァンゲリオン』は反響の連鎖反応を繰り返して、社会現象になった。手がけた庵野秀明の周辺もそれに比例して騒々しくなり、実態不明の毀誉褒貶が渦巻いた(ことだろう)。超がつくようなヒット作、話題作をつくった(つくってしまった)作家の抱える苦悩の深さは当人のみぞ知る。ファンという名の第三者は、その後の活動、作品を通して健在ぶりを確認するしかない。
『新世紀エヴァンゲリオン』の次作は、実写映画『ラブ & ポップ』。肩透かし、あるいは巧妙に仕掛けられた人心掌握のプロットを感ぜざるを得なかった。
「アニメの方法論に行き詰まりを感じていたころ。賛否両論だった劇場版『エヴァ』のラストシーンは、その表れです。そこに南里プロデューサー(南里幸氏)との出会いが重なって『ラブ & ポップ』を手がけることになりました」
それはつまり、それ以上の理由があったわけではないことを意味する。庵野秀明の商品価値を高めるための企ては、あっても不思議はないが、なくても作品はリリースされる。
「もともとジャンルや手法にこだわりはありません。アニメも映画もTVも、選択肢のひとつでしかない。そのうえ、僕はきわめて飽きっぽい(笑)。何かを極めるより、『これはまだやっていないな』という好奇心を満たすことを優先してしまうんですね」
空白のあるシナリオでクランクインした『式日』
庵野秀明実写第3作(第2作は、『ガメラ3』のメイキングビデオ『GAMERA 1999』)『式日』が公開された。女優/藤谷文子の小説を原案に、自閉し錯乱する少女と主人公の交流が描かれる。少女の心が開放される“31日目”に向けたカウントダウンムービーにもなっている。ラストは白紙に近いシナリオでクランクインし、順撮りで進める手法に注目が集まった。
「シナリオは全部白紙だったわけではないですよ(笑)。最後の1/5をあえて書き込まず、撮影が進む中で、現場のプラスαを反映させて完成させたかったんです」
現場のプラスα?
「たとえば物語の結末が、ハッピーエンドなのか悲劇的結末なのかは、作品に共感した役者とスタッフが決めてくれればいいということです。アニメ制作の経験から、現場が動き始めてから見えてくるものがあることを痛感していた。今回は、それに作品の仕上げを委ねてみようと思いました」
「結末の日に向けたカウントダウンものにもかかわらず、誰ひとりエンディングを知らない。何に向かっているのかわからないという緊張感が現場を支配する。それが映像に反映されることも狙いのひとつでした」
そんな斬新な手法の総括を促すと、意外なほど簡潔な答えが返ってきた。
「最初からやることじゃなかったですね。3本目の作品ですが、35ミリフィルムの現場は初めてだったので、いろいろと知らなかったりとまどうことが多くて大変でした。スケジュールを読めない撮影が、いかに難しいものかをいやというほど思い知らされました(笑)」
『式日』のクライマックスは、31日目に少女の母親役で大竹しのぶが登場するシーン。白熱する“心のぶつかり合い”を長まわし映像で切り取っている。
「台詞はすべてアドリブです。最初のきっかけになる一言だけ決めて、あとは全部その場でつくっていきました。もちろん、すばらしい出来映えだと思います。このシーンは、アニメでは決して味わえない演出の面白さです。この部分に関してだけは、当初のおもわくどおりでしたね」
監督に向いていない
映画は観ない“監督”というような肩書きがあまり好きではないようだ。
「流されやすい性格なので、向き不向きということでいえば、向いてないですよ。今にして思えば、初めて監督してしまったアニメ『トップをねらえ!』が運命の分かれ道でした(笑)」
アニメ界に入ったきっかけは?
「アニメブームがあったからですね。それまでは自主制作で特撮映画をつくることをやっていました。現実的に考えると企画が売れて、制作予算のつきやすいアニメをやろう! となったのです」(編者注: 『王立宇宙軍 オネアミスの翼』や『新世紀エヴァンゲリオン』のガイナックス誕生は、ここから)
「高校2年から8ミリ映画づくりを始めて以来、映画づくり、映像づくりの面白さにはまったわけですが、映画ファンではありませんでした。映画はつくるけど、映画を観るという習慣はなかったですね」
人間が好きだから、こだわりは『面白い人間を描こう』
「アニメづくりは一休みして、実写映画を手がけていますが、今後はどこに行こうかということは明確に決めているわけではありません。演劇も面白そうですし、ドキュメンタリーもやってみたい。TVも、アダルトビデオも、チャンスがあればいつでもと思っています。少なくとも“映画が娯楽映像の王様”などとは思わない。たぶん、TVドラマのほうがはるかにメジャーでしょう」
「TVドラマの魅力は、まず、第1話の制作時点で最終話をつくっておく必要がないこと。『式日』でこだわった、“現場が動き始めてから見えてくるもの”を感じ取りながら結末を探っていけるのがいい。そしてもうひとつ。掘り下げることのできるキャラクターの数が、決定的に多い。2時間映画では、1.5人。26話のシリーズなら、少なくとも5人は描けるというのがありがたいです」
とりとめのないビジョンを消化しながらも、快作を連発する。つまり、天才肌の作家に振り回され、付き合いつづけることが“庵野ファン”の宿命? と結論づけようと思った矢先、光明が差すような一言を引き出すことができた。
「唯一こだわるのは、『面白い人間を描こう』です。だから、どんなジャンル、どんなメディアでの仕事でも、これだけは譲りたくない」
現在は、次回作の企画立案中とのこと。
「まだ具体的にはなっていないんですが、少々おバカなエンターテインメントになったらいいなという感じで案を練ってます」
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